櫻

さらば愛しきアウトローの櫻のレビュー・感想・評価

さらば愛しきアウトロー(2018年製作の映画)
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わたしの母から聴いた話だけど、祖母は亡くなる少し前に「この世に悔いはなんにもないよ」と言っていたらしい。自分は幼かったのでよく覚えていないけれど、記憶のなかにいる祖母をちりちりした粒子が舞う映像とともに思い浮かべてみて、たしかにそうだったのかもしれないと、すとんと何かがこころに落ちてくるみたいに納得した。彼女はうつくしくてほんとうに陽気な人だったから、笑っている写真がたくさん残っている。笑ってるからって楽しいばかりではなかったと思うけどその姿からは、頼まれたわけでもないこの世で生きていくということを、魂が器からはなれていくその瞬間までは楽しみつくしてやろうという気概がかんじられた。けれどもこれは、わたしの勝手な想像とイメージとがごちゃついた、不純物だらけの解釈から見た彼女についてにほかならない。人生を楽しみましょう。こうなんど言われてもその上辺だけを理解しただけで、結局のところの楽しみ方はまだつかめないままだ。だけど、祖母のあの表情を思いながらこの言葉を考えるとき、ずっと自然に自分のこととしてうけとれる。昼間の陽光の下ばかりが楽しいのではなく、真夜中の暗がりのしずけさにも、誰にも理解されない閉ざされたところにも、ひらかれた幾人もの人が集まったり通り過ぎていくところにも、その場やその時の心象風景におちてくる光の濃淡に似合う楽しさがあるはずだ。合う合わないは別として、わたしはそのすべてを味わいたい。そして、楽しいのなかに何層にも重なった感情をかくして、この世の光も澱もつつみこむみたいな深みのある微笑みをした本作の彼やわたしの祖母くらいの歳まで生きてみたい。まるで熟成していくワインのように。
櫻