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フーガのTnTのレビュー・感想・評価

フーガ(1999年製作の映画)
4.1
 フーガ、「曲の途中から、前に出た主題や旋律が次々と追いかけるように出る曲。遁走(とんそう)曲」(Oxford Languages引用)という意味だそうで、今作はそれをアニメーションによって表現したものになっている。既出の映像が次々と出るのだが、単に再提示されるわけではない。その工夫がとにかく面白い。また音楽もアニメーションと絶妙に合っている。

 Georges Schwizgebelの作風は、まずカットが殆ど存在せずどれもシームレスに紡がれるということが言えるだろう。タイトルクレジットから本編でさえシームレス。この場面と場面を繋ぐ方法を、アニメならではの無数の手法で見せていく。それが全部ウィットに富んで飽きない。

 連綿と続く感覚はドラッギー。しかも決して平面的な展開でなく、しっかりと奥行きを兼ね備えた空間把握能力も相待ってより酔わされるというか、ドープだ。これ流石にコンピューターとか使ってる?しかしそうは思えないユルさもあるし、人力だとすると流石すぎる。

 後半、フーガというタイトル通り既に出た映像が追ってくるのだが、その多重露光ともなんともいえない独特のレイヤーの重なりが、これまた別種のドラッギーさを持って迫る感じがある。

 色彩と描写はディック・ブルナー的な、限られて且つデザイン的な感じがある。それに対して荒っぽい筆致というギャップも良い。黒地に描かれることで鮮烈な色彩イメージが焼きつくし、画面は常に影を帯びた黄昏たノスタルジーを醸す。ラストカットで何かをしたためる旅行客の女性らしき人物で終わり、これは旅に触れて物思いに耽る感覚の映像なのかなと思った。
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