keith中村

ふたりの旅路のkeith中村のレビュー・感想・評価

ふたりの旅路(2016年製作の映画)
5.0
 何か観るものはないかいな、とNetflixを物色していたら発見。
 リードに、「阪神・淡路大震災」「ラトビアの首都リガを訪れた」とあって、監督名がマーリス・マルティンソーンスとなっている。そんな監督は知らないけれど、海外の監督が撮る日本映画とか、日本人監督が撮る外国映画(北村監督、これからも期待してます!)って、惹かれるじゃないですか。なので、鑑賞。
 神戸とリガは姉妹都市だそうです。
 
 これ、個人的には傑作でしたよ。
 ちなみに、Netflixでは10月31日で配信終了らしいので、もしこの拙文で興味を持っていただけた方は、お急ぎくださいね。
 本日、ストーリーはほぼバラしてませんから。
 
 一言で言うと、「凡百の海外ロケ日本映画や、凡百のフード日本映画が束になっても勝ち目のない、良質な海外ロケ・フード映画」でした。
 プラスで言うなら、桃井かおりの演技を堪能しつくせる絶品。 
 
 どっから説明しましょ?
 
 じゃあ、まず「海外ロケの日本映画」ってところから。
 そういう企画って、だいたいダメな映画になります。特に、イタリアとかフランスとかのオッサレーなロケ地にすると、失敗する。
 さらに、テレビ局が製作委員会に入ってると、もう碌な映画にならない。
 いや、タチが悪いのは、そこそこヒットはするんだ。駄作でも。「オッサレー」の一点突破でエクスプロイットできちゃうから。
 ほら、「女神の報酬が目に余る」とか、「お前が冷静になれよ」とか、「マドノユキ」とか、「靴が古くなっちゃった」とか、そういうやつ。
 なんでかな。日本映画だけなのかな。
 たとえば、ハリウッド映画で海外ロケの原点と言えば、「お転婆アン王女のローマ大冒険!」なんていう歴史的名作じゃないですか。イギリス映画でもニコラス・ローグ「仮面の忍者 赤影」とか傑作あるし。(←両方とも題名ボケてますよ!)
 あっ。アメリカでもやらかしちゃってる映画あったわ! なんか、ジョニデがベニスにいく「旅行者」ってやつ。
 やっぱ、海外でもやらかすときは、やらかすんだね。
 
 これね。傾向として面白いのが、「メジャーでオサレな外国」でロケするとだいたいダメになっちゃうの。
 でも逆にね。マイナーなロケ地だと名作になるんですわ。
 たとえば、黒沢清。
 ウラジオストクで撮影した「『ドミソシ♭』のコード」(←褒めてるんだから、伏せるなよ)とか、ウズベキスタンが舞台の「第1章 終わりの始まり」(←それは堤さんのダメ映画のタイトルだから)。
 いや、黒沢さんは、たとえオサレなおフランスであっても、「ステレオタイプじゃない女」なんて凄いのも撮っちゃう。
 あと、フランスなら、最近是枝さんもね。ドヌーヴさんで、「うっそピョ~ン」という傑作を撮りました。
 ただ、そういう名匠じゃない人が迂闊に手を出すと大怪我をするのが海外ロケです。

 それから、「フード邦画」ね。
 「エスカルゴ喰わせる食堂」とか、「パン喰ってしあわせ~」とか、あとこれは飲み物だけど、「コーヒーの前に気持ちが冷めた」(←これは私が言ったんじゃない。斎藤工、グッジョブ!)とかね。
 いや、「フード邦画」は傑作も多いジャンルなんですよ。伊丹さんの「ダンデライオン」とか最高ですしね。
 「南極でずっと飯喰ってます」とか、あと、これは賛否両論みたいだけど「3年間も嫌がらせ弁当」は私は大好き。
 良作も多いけど、結構な確率で地雷が混ざってるのが「フード邦画」。
 「おいしそ~。癒された~ 明日から頑張ろう!」ってか? ケッ! Fxxx! Fxxx! Fxxxxxxx!
 来月公開なんで、まだ観てない状態で言うのも失礼なんだけど、「機能性表示食品食べた?」も、予告編ガンガンかかってるけど、全然食指が動かないの。フード映画なのに、食指がね。
 
 つまりは海外ロケもフード映画も、どっちもヤバいフラグが立つ映画なのさ。
 私が今思い出せる限りで、いい映画だと思ったのは、荻上さんの「ファミレス・ジョナサン」(←けっこう上手いボカし方できた!)くらいかな。
 まあ、この映画も結構賛否両論なんだけれど、私はそれに出てた三人姉妹的に言うと「やっぱり荻上直子が好き」なんですよね。
 これはロケ地がヘルシンキなんで、私の「マイナーなロケ地だと名作」仮説を補強してくれるんです。
 
 まだ、全然本作に言及してないや。
 そろそろ書きましょう。
 本作は、「海外ロケ」「フード邦画」という「絶対やめとけ企画」にも関わらず、大成功している稀有な傑作でしたよ!
 やっぱラトビアというマイナーなロケ地が勝因だったんでしょうか。
 いや、本作は「外国人監督による日本映画」でもあります。これも、鬼門映画であることが多い枠ですよね。
 「日本を舞台にした外国映画」じゃないですよ。そっちは傑作揃いだから。
 リドリー・スコットの「黒い雨」とかソフィアさんの「翻訳したのでニュアンス欠落」とか、タラちゃんの「ビルを殺せ!」とか、メルギブが沖縄戦を描いた「前田高地」とか。
 
 じゃなくって、邦画枠なんだけど、監督が外国人。古くは、巨匠ジョセフ・フォン・スタンバーグ最晩年の「あんたはん、何してはりますのん」がありましたね。
 まあ、私はあの映画結構好きだけれど、世間的には失敗作の烙印が押されている。
 最近だと、バーナード・ローズが監督した「長距離ランナーの孤独な武士」もいまいちだったっけ。
 
 なのに、本作は素晴らしいのです。
 監督は、ラトビア人のマーリス・マルティンソーンスさん。恥ずかしながら知りませんでした。
 2006年の「Loss」と、2010年の「AMAYA 雨夜 香港コンフィデンシャル」が共に、アカデミー外国映画部門のラトビア代表になった人なんですって。
 で、桃井さんが「Loss」に感銘を受けて、マーリスさんの映画に3本出演してる。
 私は観てないけれど、「AMAYA」も桃井さん主演。本作は、その後の「Oki - in the middle of the ocean」に続いて桃井さん実に3本目だそうです。
 過去作観たいなあ。観る手段あるのかなあ。
 マーリスさん、俳優も兼務してるみたいで、本作でもTVディレクター役で出演してます。あと、脚本と編集も。
 脚本、すごいな。何で日本の事情そこまで知ってるの? リサーチしてくれたんでしょうね。
 私の第二の故郷である神戸を美しく撮ってくれたのも嬉しいな。
 
 あのね。
 ところでね。
 最近の桃井さんって、結構樹木さんに寄ってる感じがするじゃないですか。
 「一発も当たってません」とか「朝日ソーラーの屋根」とか。(←今日はとことん題名をボカすことに決めた)
 樹木さんの後継者は桃井さんだ! とか思っちゃいますよね。
 でも、本作を観ると、このお二人さんの似てるようで違うところが明確になる。
 希林さんは、なんつーか、老獪なの。裏で「イヒヒッ!」って笑ってる感じがちょっとあるの。言い換えると、どこか客観的演技なんですね。まあ、手癖だけで、そんな芝居ができる希林さんは凄かったって話でもあるんですが。
 ところがかおりさんは、決して「老獪」じゃないの。最近「老成」してきてるけど、もっと切実なの。メソッド演技といってもいい。
 だから、本作も、「桃井さん、うまっ!」と舌を巻きながら、こっちも切実に笑ったり泣いたりしちゃうんです。
 本作、ストーリーはハマらない人もいると思うんですが、桃井さんの演技をずっと観るだけでも価値がありますよ。
 
 最近老成してきた女優さんといえば、田中裕子もそうですよね。
 裕子さんはかおりさんの4つ下。
 近作では「ワンナイト・スタンド!」とか、「オラオラ系で我が道を往く」とか、良かったですね。
 本作はその裕子さんの「オラオラ系」とかなり似た映画でした。
 私も半世紀以上生きてきて、幽霊が怖くなくなったもの。死者を思い出すのと、幽霊を見るのはイコールな精神活動だもんね。このお二人のどっちも近作に、そういう「心霊映画」がある。
 
 だから、桃井さんと田中さんのこれからは、ずっと目を離せないですよ。
 
 最初に書いたけど、本作は「阪神・淡路大震災映画」でもある。
 本作でその震災と同列に語られるのは、いわゆる「人間の鎖」のひとつである「バルトの道」。作品内では「同じ頃」って言ってたけど、阪神の6年前ですね。
 さらに、その3年前の1986年には、アメリカで「ハンズ・アクロス・アメリカ」があった。
 これは、ジョーダン・ピールの「明日」(「お尻」とどっちにボケようか迷ったけど、こっち!)で描かれてた。
 あの映画はウサギのアップから始まってたけど、本作もウサギ出てきましたね~。
 あと今作はウサギも出てきたけどウナギも出てきた。
 だから何だってことはないんだけれど。
 
 ウナギつながりでフォルカー・シュレンドルフの「トタン板のドラム」に言及しようと思ったけど、あんまり関係ないんで、この辺で置きなわ県。