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ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のTakaCineのレビュー・感想・評価

4.2
【チャーミングなチャーチル】
ふてぶてしい顔
太った体躯
葉巻姿

よく知らないくせに、子供の頃からチャーチルの第一印象は凄く悪かったです。「政界一の嫌われ者」さもありなんと思ってました(大変失礼ですね😅)

これほど有名な偉人を知らない無知さ加減が恥ずかしいですが、本作のチャーチルは凄く凄くチャーミングで、一変に好きになりました😊

【演技とメイクアップの功績】
伝記映画としては、丁寧でオーソドックスな構成と思いました。その中で特に抜きん出て素晴らしかったのが、ゲイリー・オールドマンの演技と辻一弘さんの特殊メイクアップ技術です(双方とも、第90回アカデミー賞の主演男優賞とメーキャップ&ヘアスタイリング賞を受賞しました)。

〈緻密でエモーショナルな演技〉
印象的だったのが「本当は怖い」と吐露するチャーチルの素直な弱さ、民衆の想いに思わず涙する人情味、奥さんや秘書にだけ見せるお茶目な少年ぽさ。そのどれもが、とってもチャーミングなチャーチルでした。

厳しい戦局において首相になり『ダンケルク』でも描かれた兵士救助作戦に最後まで悩み苦しむ姿は、どこまでも「血、労苦、涙、そして汗」を流す人間臭い人物像でした。これはオールドマンが演じたからこそ、ここまで奥行きのあるチャーチルになったと思います。

彼の出演作を全て観ているわけではないですが、『ドラキュラ』のモンスター演技でさえ、独特の色気と哀しみと知性がみなぎっていました。怖くもあったけど、反比例して目の奥はどこか優しかった。

そんな彼の一筋縄ではいかない複雑な個性、同業者が称賛する一瞬にして場の空気を変える圧倒的演技力によって、チャーチルの人間的な魅力、政治家としての熱い想い、心揺さぶらせる雄弁家ぶりを見事に創造してくれました。

クライマックスの真摯で力強い演説表明は、シェイクスピア舞台を観ている時の高揚感や詩的な感動を覚えたほど。

we shall never surrender
我々はけっして降伏しない

言葉の力をよく知るヒトラーが彼を恐れた理由は、きっとこの"人々を言葉で鼓舞する才能"だったのでは?と思わせるような素晴らしい演説演技でした。

チャーチルの喜怒哀楽を事細かに演じ分け(声の使い分けも素晴らしい)、彼の特徴と衣装を完璧に身に付け、庶民に愛されたユニークな政治家が銀幕の中で確かに呼吸をしていました。そのつもりもなかったのに、彼の奮闘ぶりと苦しみが痛いほど感じられて、途中から涙が止まりませんでした。

本作のオールドマンの素晴らしさは、ここにどんなに書いても書ききれません。

『アマデウス』のF・M・エイブラハム
『カポーティ』のP・S・ホフマン
『リンカーン』のD・D=ルイス(こちらは未見ですが)

これらに匹敵する素晴らしい演技でした。

大好きなオールドマン!
主演男優賞、本当におめでとうございます🎉✨😆✨🎊
でも遅すぎたよね、ゲイリー。

〈チャーチルをメイクで創る〉
スリムで面長なオールドマンを、太っちょで丸顔のチャーチルに似せる難題に挑戦した辻一弘さん。

凄いのはオールドマンなのに、角度変えるとちゃんとチャーチルなんですね。

オールドマンが出演オファーを受けた時、引退していた辻さんに「あなたが引き受けないなら、僕も映画に出ない」と説得したほどのメイクアップアーティスト。

試行錯誤を繰り返し、チャーチルの特殊メイクが完成するまで、なんと6ヶ月も要しました。

彼の師匠にあたるディック・スミスのアカデミー賞メイクアップ賞受賞作『アマデウス』のサリエリのメイクと、本作を比べてみると面白いですね。

僕は大画面で観ても、不自然さが全くない辻さんのメイクが好きでした。

25年ぶり(『ドラキュラ』で衣装デザイン賞を受賞した石岡瑛子さん)の日本人の個人受賞、本当におめでとうございます🎉✨😆✨🎊

チャーチルを蘇らせた2人の功績に特化してレビューしましたが、秘書役のリリー・ジェームズが凄く可愛かったのと、チャーチルの妻役K・S・トーマスの夫を叱咤激励する強い女性像が印象的でした。

関連性が強いノーラン監督作『ダンケルク』を先に鑑賞しておくと、チャーチルの苦悩や功績がより分かりやすいと思います。

最後に記憶に残るは、チャーチルの優しい目と力強い声。

チャーチルは若い頃から鬱病に悩まされ続けたそうです。その事実を知ると、強靭な精神の指導者と言うより、もがき苦しみながら正しき道を探ろうとした男の姿が浮かんできました。
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