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孤狼の血のmatsuitterのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.8
警察対ヤクザというやり尽くされた設定にも関わらず非常に練られた脚本、そこに昭和ヤクザ映画の画作りとBGMがこの上なくハマっており、東宝がシンゴジラで達成した遺産オマージュを東映がその十八番でやり切った。演技も全員がベストアクト。白石監督は新たな金字塔を打ち立てた。傑作。

以下ネタバレ。

好きなポイントは昭和ヤクザ映画オマージュ、脚本、そして役者陣の存在感の3点。

まず第1に、画面の色遣い+BGM+ナレーションであえて昭和のヤクザ映画感を演出する手法は完璧に大成功している。昭和63年の設定だからそりゃそう寄せるだろって言う以上に、日本の往年の東映ヤクザ映画へのセルフオマージュを感じずにはいられないこの空気感。東南アジアの映画かよっていうぐらいのドギツイ配色と夜の暗さが際立つ画作りと、他ではなかなか聴けない絶妙にレトロなテーマ曲がその時代性を非常に効果的に再現していた。

2点目、昭和ヤクザオマージュの上で、警察をメインに添えた原作アリの脚本が既存ヤクザ映画との差別化をしっかりと印象づけている。実態としてヤクザは決して主にならずあくまで主人公は刑事2人である。

そして失踪事件の謎を追う刑事バディものの体をなしておきながら、それ以上に松坂桃李が役所さんの謎を追うという伏線が実質的な本筋で、そこで桃李くんの葛藤と成長を描くというのが主題となっている。

今回松坂桃李はある種の狂言回しも兼ねており、いきなりぶっこまれた状況を充分理解できず動揺しながら本筋に食らいついていく(観ていた私は悪い意味でキャラの名前がわかりづらく誰が誰だか理解がけっこう大変だったけど)。ある意味前半の桃李君は我々観客と同じで枠を外から見続けるしかない状況、映画を観る行為自体と同じ状況に置かれている。

さらに言えば、彼は観客と同じ目線で役所さんがかき回す場を客観的に観つつも、最終的に実質主役へ成長しクライマックスを〆る。これが観客の心理と完全一致しており、本作の最高の妙技であった。

白石監督は視点スイッチがとてもうまい。前半に主人公はこういうキャラだろうっていうのを充分印象づけたあとに、うまくその思い込みを切り返して映画的な魔法を炸裂させる。まさに今回は役所さんの得体の知れない強さとそのギリギリ感。桃李くんはドン引きしつつも彼を微妙に裏切れない、ここが映画の後半でどうスイッチするかが面白さの根幹になっていた。警察とヤクザの戦いだけでは新しいインパクトとしては不十分で、役所さんの正体を理解したあとの桃李くんの成長を描いたからこその2018年のヤクザ映画と言えるのではないだろうか。

3点目、演技面だが、正直役者は全員がベストアクトに相応する存在感が素晴らしい。役所さんは「渇き」のような屈強でぶっきらぼうな役どころにものすごい惹かれたし、江口洋介のヤクザ演技は激レアだし、真木よう子のママさんぶりもハマっていた。「かの鳥」に出た竹野内豊のチョイ役とか常連の瀧さんとか、存在だけでうれしくなる面々がしっかり顔を出しており、白石ファミリーがさらに強くなったラインナップ笑。

ただそれでも個人的なベストアクトは中村倫也の血走った目だ。初回の喧嘩から血走りまくりで尋常じゃない雰囲気。後半の鉄砲玉もやるべき仕事をやりきっていた。

ネガティブな点。

上でも触れたが人の名前が覚えられないw 顔でどっちの組の者かはなんとなくわかっているけど会話で出てくると結構ハテナマーク。

ナレーションがホント昭和の映画っぽくて面白いんだけど、ただこの説明は話が一気に進むのでついていくのが精いっぱいだった。

余談。

東宝が「シン・ゴジラ」で成し遂げた遺産へのオマージュを、東映としてやり切った点は手放しで絶賛したい。いやーほんと白石監督は彼の持ち味とファンの期待に正面から答える最高の仕事をしました。本作こそはタランティーノがパルプ・フィクションに投影した日本ヤクザ映画の正当な継承者と言えるのではないでしょうか。昨今のバイオレンスを牽引する韓国ノワールに対して日本らしい緊張感で一矢報いた映画でした。