せーじ

心が叫びたがってるんだ。のせーじのレビュー・感想・評価

心が叫びたがってるんだ。(2017年製作の映画)
4.0
213本目。アニメーション映画版(以下アニメ版と略します)を観た後、実写映画版があることを知り、レンタル、そして鑑賞。
アニメ版を観ていて感じた"不備"が、ある程度のところブラッシュアップされていて、すっきりと感動できるとても観やすい青春映画になっていました。

いくつか違う部分や違う展開があるものの、基本的にはアニメ版のほぼほぼトレスに近い話運びと演出が成されていて、とても忠実に実写化がなされていると思った。
アニメ版評で自分は「ヒロインである順の発案や希望だけで物語が進み過ぎている」と書いたのだが、物語の骨子は変わってはいないものの、彼女がミュージカルというものに惹かれる姿が丁寧に描かれ、しっかりとクラスメイトと共に練習をしている姿や、教室に貼られていたスケジュール表に彼女が書いたメッセージが貼られているというカットなどをキチンと挿入していたので、アニメ版で感じた「順にクラス全員が奉仕しているように見える」という悪い部分が大幅に中和されていたと思う。また、ファミレスの場面以外で、ふれ交の実行委員たちが学校以外では集まらない様に描いていたというのも良かった。屋上で色々やるというのはベタだとは思うが、アニメ版の様に、拓実宅であれこれ密室的に決めてしまうよりかはずっと公平に見えていいと思った。
更に、順が喋れなくなる理由も、アニメ版とは違う形で後から「玉子の呪い」に気がつくという構造がリアルな作劇だと感じたし、その場では拓実に否定されてその考えを受け入れたものの、後に彼の"本当の気持ち"を知り「裏切られた(嘘をつかれた)と思う」というプロットも、上手く出来ていると思った。クライマックスで「喋れるようになったが歌うとお腹が痛くなる」という形で順のコミュニケーション不全をツイストさせているというのも上手いし、そこで拓実自身の弱さを浮き彫りにさせて並べると言うのもよく考えられていると思う。

そして、素晴らしかったのは本番のミュージカルの場面。もともとアニメ版を観ていた時から「実際に進行しているミュージカル」と「拓実と順のぶつかり合い」とを映画的に並べていく構造は面白いなぁと思っていたのだが、ブラッシュアップでそれが大幅に際立つ構造になっていると感じた。最後のマッシュアップも、ただ重ねるのではなく、両方の歌の歌詞を上手く融合させてアニメ版よりも大幅に分かり易くしていたし、舞台上のアクションなど、画的な見栄えも含めてとても良く出来ていると思った。個人的には、順が遅れて客席に立ち、歌いながら舞台に登ったときに、順の母親と目が合って少し歌が歌えなくなり、「…ママ」と小さく呟くという演出がひとつ挿入されていたのが、とても素晴らしいと思った。これがあるのと無いのとでは「順と母親との関係」についての見方が大幅に変わってしまうであろう、秀逸なつけ足しだと思う。
エンドロールの入り方も、切れ味がよくて良かったです。

強いて言えば、順がへたり込む場面の音楽とカメラワークや、田崎と後輩がやり合う場面などで、棒立ちになっている登場人物が目立ったりなど、若干例によっての邦画的なベタな演出が鼻につく場面が散見したりもするのですけど、全体的には「いい話」が素直にいい話として伝わる様に出来ていて、個人的にはアニメ版よりもこの話が好きになりました。
「アニメ実写化映画」の中では完成度が高く、かなり誠実に作られている作品だと思います。アニメ版も含めて、見比べてみるのもいいかもしれませんね。
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