磔刑

蜘蛛の巣を払う女の磔刑のレビュー・感想・評価

蜘蛛の巣を払う女(2018年製作の映画)
2.1
「払うべきは細心の注意」

致命的な欠点が2つある。まずリスベット(クレア・フォイ)のハッキング能力が現実的な域を逸脱して、完全にファンタジー的パワーになってる点だ。
暴露されるアメリカ主導の国家プロジェクト。スゲー規模のデカイ話だなーと思ってたらもう次のシーンでハッキングしてる😰出先でも携帯一つで多くの車のロックを外し、走る車のエアバックを強制的に動作させる。空港のセキュリティなどなんのその。もうリスベットに出来ない事は無いと言わんばかりだ。
セキュリティやらハッキングに詳しい訳じゃないので有識者に「あれぐらいリアルでもてきるし笑」とか言われれば、「はいそうですか」って感じではあるが、映画的演出において訴求力があるかと言う問題とは別だと思うのだ。“アイアンマン”は架空の存在だが、“ハッカー”は現実に存在してるのだ。

もう一つの欠点はシークエンスからシークエンスに移る導線のご都合主義が過ぎる点だ。
ド派手に爆破されたアジトで都合良く見つかる足跡。敵に心肺機能を停止する毒を打たれ、絶対絶命の状況でたまたま近くにあった気付け薬(?)を飲んで解決。しかもしっかり錠剤を砕いて顆粒にして🤗
敵の組織のタトゥーに気づくキッカケも偶然。あの演出の方が導線としてはスマートなのはわかるが、ただでさえ活躍が少ない人物なんだから洞察力の結果の末にしてやっても良かったんじゃないか?
毒により失明した敵が偶然森を抜け、偶然道路に出て、偶然敵のボスが乗った車に(しかもドライバーが偶然よそ見をしてて)轢かれる。もうこのシーンに関しては思わず吹き出しちまったよ。
あとリスベットのセフレが裏切ったと思わせて実は裏切ってない展開も、裏切るキッカケ(導線)が弱く、ただの頭の悪いビッチに見えただけでその後の「実は〜」ってのが弱くなってしまってる。嫉妬深い伏線は貼ってたとは言え、セフレの風貌からしてそんな高尚な貞操観念があるように見える訳ないので(加えてリスベットとの淡白な関係性)、裏切りに説得力が生まれずミスリードを果たせていない。唯一導線が綺麗に繋がってるのはDV CEOを吊るす所だけだ。

この2点の甘さが兎に角目について集中力を阻害された。というよりもいくらなんでも多すぎる。列挙したよりも更に多く存在するが、もう忘れたよ!不出来な演出をいちいち覚えてられるか!
特に導線は次のアクション、目的に対して観客を巧く誘導する為の手段なのだが、それが逆効果で本当にトホホである。

主題や雰囲気はサム・メンデス版『007』と酷似してる。というかかなり寄せてる様に感じた。リスベットのハッキング能力も『007』のトンデモガジェットそのものだしね。ただ、寄せるのはいいけどある一点の弱みを払拭出来てない時点で完全に劣化になってしまってる。それはアクションだ。
リスベットが女性である点に関してはハッキング能力とは違い、かなり現実的な運動能力として演出されており、対面で男性には勝てない(テーマである“暴力によって男性に搾取される女性”が根底にある)。なので敵のボスの周りを屈強な男達が固めてる時点でリスベットに勝てる要素がないし、本当に勝てない。なので当然、魅力的あるいは意外性に富んだアクションシーンが生まれるはずもない。
その為、地味なミステリーの華であるはずのアクションを失った時点で地味なミステリーの域を絶対に出ない。サム・メンデスすら正当なアクションシーンを撮るのはイマイチだったが、それを芸術性でしっかりカバーしてた。リスベットの弱さを考慮するなら今作もその方向で演出すべきだった。

あと最後のスナイパーによる狙撃も、敵の位置を知らせるギミックが完全にSF。あの表示の仕方やリスベットが屋敷に侵入するアクションなんかは『メタルギア・ソリッド』っぽいなと思った。
追走劇もハッキング合戦で一作で何回同じやりとり見せるんだ。ハッキングする能力はいいとしても、自己防衛する側としてはどうなんだ?
リスベットのフラッシュ・バックも過剰で情緒が台無しですよ。しかも序盤に集中してて、観客はアルツハイマーやないんやで。

最後に、『死霊のはらわた』のリメイクは只の有頂天なスプラッタなので嫌いなのだが、『ドント・ブリーズ』はその年のベスト5に入れたくなるぐらい大好きなので、監督のフェデ・アルバレスの今後には非常に期待してるのだが、結果『ドント・ブリーズ』が最高傑作になりそうで落胆した。
ただ、今作の雰囲気は好きなので(映画鑑賞後、深夜の帰り道。自転車で疾走する自分とバイクで颯爽と駆けるリスベットに重ねるぐらいは)決して必要以上に退屈したり怒りが湧く程の内容ではない。完成度は高くないが鑑賞を後悔する程ではないといったところか。

「まぁアルバレス君。そんなに落ち込むなって!私も怒ってないから!!ほら!今回は大目に見てあげるから!だから次回こそは頼んだぞ!」そんな監督に励ましのエールを贈りたくなる一作である(ただ、製作費に対する興収がヤベーのでアルバレス君のキャリアに次はないかも🥳)。
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