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リバーズ・エッジのumisodachiのレビュー・感想・評価

リバーズ・エッジ(2018年製作の映画)
3.4
岡崎京子の傑作『リバーズ・エッジ』。
私がこの原作を読んだのは社会人になってからだったが、読んだときの衝撃は忘れられない。

原作に登場する高校生たちからは少し年下になるが、私も90年代に学生時代を過ごした。『リバーズ・エッジ』とは随分違う環境で育ったとはいえ、あの時代の空気感は共有している。

暴力、セックス、同性愛、薬物、妊娠、嫉妬、動物虐待、過食症、ネグレクト。『リバーズ・エッジ』はこういった陰鬱とした要素をごった煮にした作品だ。しかし、そこにあるのはギラギラしたエログロではなく、カラッとして空虚な質感。

キャラクターの再現度も高いし、原作に忠実な姿勢も感じる。特に、吉沢亮は素晴らしい。今までこんなに良い役者だとは思わなかった。こずえ役のSUMIREも、(セリフ回しは覚束ないものの)岡崎京子作品の雰囲気は抜群。二階堂ふみも体当たりの演技だったし、本気を感じた。死に接することでしか生を感じられない若者たち。生と死、生と性。タバコ、牛乳、火、工場、河、草むら、廃墟、光、嘘、固定電話。

ただ、なんだろう。自分でもこんな感情になるとは予想外だったのだが、「でも、あなたたちには分からないでしょ。あの時代を知らないでしょ」と感じでしまったのだ。強烈に。

オリジナルラブのライブに行きたがって、小沢健二のソロデビューアルバムを試聴して、少し変わった展覧会に興味を持って、ベレー帽をかぶっている女の子が、クラスの中でどんな風に存在していたのか、あなたたちに分かる?と思ってしまう。どうしても。他の子は皆、ドリカムやB'zやミスチルを聴いていた。間違いなく、そっちが多数派だった。

私は、ピチカートファイブの曲を少し背伸びした気分で聴いて、毎日ミュートマジャパンをチェックして、小山田圭吾の小枝のCMに盛り上がって。ノストラダムスの予言を信じているわけではないけれど、頭のどこかで1999年に世界が終わってしまうのではないかという感覚がずっとあって。リヴァー・フェニックスが死んだ日には、同級生が泣き崩れた。

吉川ひなのや市川実和子が高校生役をやるわけにはいかない。だから、そんなことを言ったら身も蓋もないのは分かっているのだが、それでも、「あれは私たちにしか分からない」と思ってしまう。あの時代は、やはり閉じていたんだと思う。全然冷静に観られなかった自分に驚いた。

また、登場人物たちのモノローグを差し挟むという、映画オリジナルの演出にも少し戸惑った。もしかしたら、あれで分かりやすくなっているのかもしれない。でも、原作が持つドライな質感というか……振り返ったら無が広がっているような感覚が、とてもウェットなものに変質したような気がして。彼らはきっと、あんなインタビューに答えたりしないよ。

こんなに個人的な感覚に振り回されるた映画体験は初めてかもしれない。『リバーズ・エッジ』が特別な作品なのだということを、痛いほど再確認した2時間だった。
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