櫻

ハートストーンの櫻のレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
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水中から無理やり掴み出されて、お前じゃなかったと再び投げ戻される魚の気持ちなんてわからない。朝、草原を包みこむ霧に溶けてしまいそうなくらい透き通った白い肌を赤く火照らせながら、君たちは何を考えていた?なんの正しさも意味を持たない少年たちは、馬のしっぽのような髪毛を艶やかにゆらす少女たちを追いかけた。天使みたいな顔をしてはにかみながら、すべて知っているように振る舞い、人知れず胸の内を隠した。心臓に抱えきれないほどのそれ。水の中だけは叫ぶことができた。浮かんでいるちいさな草切れや木切れが波紋となって震える。その淡い想いは、消える前に、出血して排水口へと吸い込まれていった。やがて、ひりひりと冷たい冬がやってきて、真っ白な雪であたりを隠してしまう。私じゃなければ、僕じゃなければ、そんな連ねられた独りよがりの葛藤をやさしく放っておいたら、誰も叶うはずのない幸せ。おでこにだけ、少しだけ体温とともに貼りついたまま。また春が来て、雪が溶けてしまったら、もう君はいない。自分の歪さを抱きしめられるのは、自分しかいない。
(2018年8月9日の深夜)
櫻