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デトロイトのTakaCineのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.1
"命は守られるべき"という幻想

【権力で捻り潰された真実】
1967年に起きた「デトロイト暴動」は残念ながら知りませんでしたが、2014年ミズーリ州ファーガソンで起きた、18歳黒人少年を白人警官が射殺した事件は今も覚えています。

記憶に残ったのは、大陪審がその警官の不起訴処分を下し(少年は無抵抗で無防備だった)、これに反発した住民等に依って抗議デモや暴動が生じたニュースを連日見ていたからです。

日本人の自分には実感できない根深い人種差別(KKKなど)、制圧と報復、怒りと憎しみの連鎖…人種のるつぼとは対立の歴史。まさに殺るか殺られるか?

更に"警官に逆らえば…"という法の番人の武力行使が加わる恐怖。モーテルでの尋問場面は胃が縮み上がるほど理不尽な恐怖に晒されます(『ディア・ハンター』のロシアンルーレット並み)。

デトロイトも警官も嫌いになるくらい、非常に苦痛な描写が続きます…

デトロイト暴動から約50年経って描かれる本作は、今も消えることのない人種差別と不当な暴力を強い決意で告発する映画です。

【強いられる恐怖と緊張】
非常に胸糞悪いです。理不尽すぎて凶悪すぎてムカついて「何でこの場にいるんだ!」と、心の底から後悔しながら観ていました。奥歯を噛み締めすぎて痛いです。

いとも簡単に暴動や略奪に発展する驚き。いつ撃たれてもおかしくない膠着状態。吐き気を催すような恐怖と緊張。

生きる権利が剥奪された世界。
観ていて怒りが込み上げます!!

ビグロー監督が目指したのは、観客を暴動に巻き込み、奈落の底に突き落とし、苦しみを感じさせることかっ(と感じてしまった)?

正直、えげつないと思います。映画というより、ドキュメンタリーの犯罪場面を見せられた気分でした(まして揺れるカメラで酔う)。

これだけの大作(主題)を、アカデミー賞が全く無視してノミネートさえしなかったことに驚きましたが…たぶんアカデミー会員は、本作を観て強い嫌悪感を持ってしまったのかも。アメリカの絶望的な闇を感じます。

窓を覗く女の子。
あの場面…一生、監督を赦せない気分ですね!

語弊があるけども、観客を嫌な気持ちにさせたい映画(監督は議論をしてほしいと語っています)。これが真実であることが悲しいです。

【演者の苦痛】
観ていて辛すぎるモーテルの場面を演じ切った演者たちの苦痛は、トラウマ級に酷かったと思います。

この世の地獄と化したモーテル。

現に「セットの中で、耐えきれず突然泣き崩れてしまった」あまりに酷過ぎる役柄を演じたウィル・ポールター。暴力の裏に潜む怯えと無知を顕在化して造り上げた知性と、心を納得させて演じ抜いた勇気を讃えたいと思います。演技のノミネートをされなかったのが残念です。

『SW』シリーズで有名になったジョン・ボイエガは、白人と黒人の間で葛藤する役柄を、奥行きと正義感溢れる演技で魅せてくれます。判決内容を聞いた後の複雑な表情は白眉!僕も同じ想いでした。

後、尋問室の壁(あるシミが…)と手錠が怖かった。

【明るみに出た物語】
本作の主要キャラである「ザ・ドラマティックス」のリード・シンガー、ラリー・リード。

このバンドは全然知りませんでしたが、デトロイト発祥の「モータウン」は勿論知っていましたよ。大好きなマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーを輩出しましたね。

プロのアーティストを夢見る彼が遭遇した一夜の悪夢。

貧困と銃と差別と積もる不満。
マルコムXやキング牧師の暗殺。
消えることのない憎しみの連鎖。
アメリカの闇はどこまでも深い。

本作のテーマ曲
「Grow」

"本来 人は皆 平等であるはず
でも 分かってる
僕らのような人間にとっては
そうではないんだ
心が泣き叫んでる
つらいんだ
僕らは いつ成長するのか"

どうか、このミュージックビデオをご覧になって下さい(ラリー・リード本人とラリー役アルジー・スミスのデュエット)。

https://youtu.be/_aSqBAD_62g

あの時代…だけでなく、今も変わらず"今夜を生き抜く"ことが難しい世界が確実に存在します。

理性が壊れて暴走する様を描いた『es[エス]』(2001)を思い出しました。

覚悟が要りますが、観るべき映画です。
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