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シェイプ・オブ・ウォーターのymdのレビュー・感想・評価

4.2
世間的には『ウェイ・オブ・ウォーター』で盛り上がっているけど。

いまさらながら2018年のアカデミー作品賞を獲得した怪作を鑑賞。前年では『ムーンライト』が作品賞を獲っていることも象徴的だけど、オスカー自体の意識の変革が如実に表れた受賞作である。

ギレルモ・デル・トロ監督の偏執的なフリークラバーっぷりが濃厚なダークファンタジー色が全開の本作は、非常に歪でアヴァンギャルドな装丁ながら、ゾッとするほど美しく物哀しい寓話である。

ある意味で究極の愛を描いた本作は空想的なラブストーリーであると同時に極めて現代的な視点も持ち合わせている。だからこそ完全なファンタジーであるにも関わらず、消費されるインスタントなエンタメを超えた普遍性と社会性を内包している。

それは即ち“今のディズニーが最も目指すべき”目的地であり、本作があの巨大資本に中指を立てるようなアンチテーゼによって完璧に体現してしまったことが何より痛快な事実なのである。
(そんな本作がディズニープラスで配信されているという奇妙な捻れはなんともシニカルだ)

発話障害の中年女性と人間社会の外側にいる半魚人のラブストーリーというストレンジな設定は、困難な愛の形をカリカチュアライズしているのだけど、本作はさらに複層的に様々な要素をレイヤードさせている。

それは舞台設定時点の人種やジェンダーなどの差別問題にまで波及しており、単なる「恋愛の難しさ」というミクロな視点を超越して「あらゆる存在におけるコミュニケーションの不確実性・不透明性」というマクロな視点にまで開かれているのである。

その姿勢は日本映画の傑作『ドライブ・マイ・カー』にも近似したテーマであり、つまり今、このテーマこそが世界的に最もシリアスに捉えられるべき問題であることを明確に示唆していると考えるべきなのだろう。

本作はファンタジックなラブストーリーであると同時に極めて鋭い批評性を纏ったラジカルなヒューマンドラマなのである。

一方間違えれば気を衒ったイロモノとして片付けられてしまいそうな映画だけど、圧巻の映像美や音響の類稀なセンス、美術セットと時代考証に基づいた精緻な舞台装置、そして丁寧なアクトといった複合的な要素によって傑作として語り継がれるクオリティになっているのだと思う。

社会派の御伽噺でありながらもラストシーンの息を呑むほどのロマンチックな着地の素晴らしさは筆舌に尽くし難い。これこそがファンタジー映画のあるべき景色ではないかと感動してしまった。
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