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テルマのRのレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
3.7
サイキックホラー meets LGBTQ+って感じの映画でした。長らくそこそこ気になっていたヨアキムトリアーという監督の作品を見るのはこの度がはじめて。なかなか期待を膨らましていたのですが、んーーー、なんかもうちょいでめっちゃ好きそうなのに!!!って感じでした。冒頭がインパクト最強。氷一面の湖を歩いて渡り、雪に覆われた森の中、鹿が一頭。幼い娘を連れた父が鹿に向けた猟銃を、ゆっくり娘の方に向け直す。からのタイトルコール、THELMAビカビカビカ!!! ビカビカビカビカビカ!!! そう言えば、映画が始まる前に、激しく光が明滅するので、敏感な観客は注意、と出てた。主人公は女子大生テルマ。非常に厳しいクリスチャン両親の一人娘で、大学に通うため親元を離れて寮で暮らしている。親から毎日連絡が入り、テルマの様子をかなり気にしている様子。テルマはある日、図書館で勉強していると、激しいてんかん発作に襲われる。そのとき近くに座っていたアンニャという女子が、後日テルマに大丈夫だった?と話かけ、次第にふたりは仲良くなっていく。奔放なアンニャに勧められて酒を飲み、煙草を吸い、今まで禁欲的に生きてきたテルマのクリスチャンライフが変化し始め、やがてアンニャがテルマに性的な感情を抱いているのをあらわにしだすと、テルマはことあるごとにてんかんの発作を経験するようになる……という流れで、なぜテルマはてんかんの発作が起こるのか、そしててんかんのときに起こる超常現象は一体なんなのか、それをミステリーのフックとして話が展開していく。映画全体に不穏な静謐さが貫かれており、映像から冷たさが伝わってきそうなほど、低温に澄んだ、いかにも北欧ホラーといった雰囲気が素晴らしく、先の読めなさも心地よくてイイ。ところが、実際に話が展開してしまうと、あれーそれほどインパクトがある内容でもないかなーと思ってしまわされるのがかなり残念。話が進むたびに毎回期待が膨らむのであるが……ただ、本作を、テルマという女子が自分のアイデンティティを明らかにしていく青春ミステリー映画として見るとどうだろうか。んー。でもそうすると今度は、ちょっと内容にリアルさがないのが気になるなー。宗教とLGBTQ +の葛藤を描いた作品という面もあるにはある。ただ、いろんなジャンルの要素をブレンドしようとして、全体的に薄味になってしまったのかな?という印象に落ち着いてしまった。本作が好きという人は、このブレンドが絶妙に好みに合ってたんだろうなー。僕としては、冒頭のシークエンスのインパクトを、それ以降のどのシーンも超えられてない、というのが率直な感想。とはいえ、いくつかいいシーンがあるのも確か。個人的にお気に入りのシーンは、病院で検査を受けるときのストロボ演出ですかね。ビカビカしすぎで、こっちがてんかんを起こしてしまうのではないか、というリアリスティックな不安に襲われながらも、負けるもんかとガン見するスリル。あとガラスパリーーーーーンしゅーーーーーーのところも良かったし、赤ん坊のふたつのシーンもヒヤリとして良かった。それを見たあとだと、テルマのお母さんの見え方が全然変わります。本作で一番いい演技をしてるのは、小さな脇役でありながら、実はお母さんなのでは、という気がしている。鬱々とした表情が顔の造形にものすごく合っていた。そして、最後に、本作で僕がもっとも気に入ったもの、冒頭から心酔しきっていたもの、それは音楽です。弦楽器の音が重厚に鳴り響く上に、高音のストリングスが美しくも哀しい旋律を奏でているのがツボに入りまくって、脳が覚醒するかのような感覚だった。ゆったり静かに進んでいく本作を見ながら、眠くなくことなくスッキリした状態で見れたのは、確実に音楽のおかげだと思います。さて、本作、オススメかと言われると、んーーーーー、絶妙に惜しいくらいの感じなので、時間に余ってて、気が向いたら見てみる、くらいの扱いでよいかと思われます。絶対見て!って感じでは決してありません。
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