ま2だ

トレイン・ミッションのま2だのレビュー・感想・評価

トレイン・ミッション(2018年製作の映画)
3.9
トレイン・ミッション 観賞。

原題はThe Commuter。観客の知的好奇心をいっさい信用しないダサい邦題を見て、SAWシリーズからゴアを抜いて96時間おじさんをぶち込んだようなバカっぽいノリを想像していたが、意外やオーソドックスなスリラーの小品に仕上がっている。

原題は「通勤者」。劇中でも小道具として何度も登場するが、この移動中に読み捨てるペーパーバック感は悪くない。

リーアム・ニーソンとジャウム・コレット=セラ監督のタッグはまさに円熟の域、撮り方と撮られ方を双方よく心得ている。劇中のアクションとスペクタクルの配置も巧く、96時間モードに突入しそうでしない寸止めテイストで映画を進めつつ、ここぞというところでお得意のおとうさんアクションと大スペクタクルを炸裂させる。インフレを回避して厳選されたそれぞれのシーンのクオリティは高い。

ただ本作の本質は、アクションを適度にまぶした地味なガチンコ列車ミステリーといったところで、その視点から観ると、ただの列車ではなく通勤列車という設定を巧く用いて、列車=移動する密室という定番から逃れていく展開にこそ注目すべきだろう。

乗客の乗降に応じてターゲットが絞り込まれていく流れは、「オリエント急行殺人事件」に「そして誰もいなくなった」を持ち込んだような妙味がある。

潔くフーダニットに全振りした内容で、車内の登場人物たちの、脚本に都合のいい描写や台詞回しには生身の人間の奥行きは感じられず、彼らは推理の駒として以上は機能していない。ベラ・ファーミガとパトリック・ウィルソンの死霊館コンビや、サム・ニールなど渋めの俳優陣のチョイスに救われている感がある。

そもそも深掘りしないのが吉、な荒唐無稽な状況設定ではあるものの、ホワイダニットとそこに紐づく人物像の掘り下げを行えば、列車停止後のシーケンスの蛇足感をクラシカルな人間ドラマがもたらす充足感に変えられたのでは?とも思うが、そこを捨てたかわりに、アクションと爆破で部分的にアップリフト、手堅いエンタメに仕上げてみせたのが本作というわけだろう。

なかなか凝った列車内のカメラワークは、ケネス・ブラナー版「オリエント〜」と比較してみても面白いかもしれない。ただ冒頭のトリッキーな時間処理はやり過ぎ、ミスリードで不要な演出に思えた。
ま2だ

ま2だ