恭介

女は二度決断するの恭介のレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.8
ストーリーは至ってシンプルだ。

最愛の夫と息子を爆弾テロで失った妻の物語。

事件、容疑者逮捕、裁判。そして妻が下した最後の決断。

余分な装飾や過剰な演出を削ぎ落とし、監督が妻を演じるダイアン・クルーガーと心中するつもりで彼女に託した作品。その監督の期待値を遥かに超えた素晴らしい演技を披露し、見事に演じきったダイアン。

ブラピのトロイでは国と国を壮絶な戦争に巻き込む元凶となった王女を演じ、ナショナルトレジャーシリーズでは若ハゲ大将のニコケーの相棒、更にはタランティーノ作品と、一時期ハリウッドでも引っ張りだこだった美貌を持つ彼女。

しかし、本作では悲しみに暮れる悲劇の妻をノーメークぐらいの勢いで、時には泣き叫び、時には静かに打ちひしがれる、そんな感情の起伏を渾身の演技で表現し、魅了する。

が、冒頭に述べたようにストーリー的にはあまりヒネリがないので、本当にダイアンの演技を見る為の映画、とも取れなくはない。爆破テロの派手なシーンや、手に汗握る法廷劇の要素もなく、とにかくシンプルに淡々と進行する。

ただ、そんな演出がジワジワとボディブローのように効果を発揮し、ダイアン演じる妻へ感情移入する手助けとなり、いつのまにか魅入っているという事は、やはり三大映画祭受賞歴を誇るファティ監督の手腕なんだろう。
本作のダイアンの演技にカンヌが応え、ゴールデングローブ賞ではファティ監督も栄誉を受けている事も充分、納得できる。

そしてラスト。
ちょっと過剰気味な邦題にある、彼女の二度目の決断。

全くの想定外だった。
しかし、それまでにシンプルだが、丁寧に積み上げられてきた物語と彼女の心情を振り返ると、悲しいかな納得してしまう自分がいた。

決断の予兆として意外な、ある出来事を挿入し、彼女の心情を物語るくだりにも、脚本と演出に冴えがうかがえる。

訳もなく、ある日突然いなくなってしまった最愛の人達。犯人が捕まろうが、裁判の結果がどうであろうが、その喪失感と虚無感、心に負ったキズは一生消える事はない。
それを本作は改めて教えてくれる。
そんな本作のラストは民族、国、テロリズム、司法などに対して、激しくて悲しいメッセージだ。
恭介

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