Kamiyo

ラブレスのKamiyoのレビュー・感想・評価

ラブレス(2017年製作の映画)
3.8
2017年 ”ラブレス” 監督.脚本アンドレイ・ズビャギンツェフ
” ロシア映画”カンヌ国際映画祭審査員賞高評価を受けたサスペンス

冒頭ラストも)見事なまでの雪国の湖畔の風景が静かに写し出される。
静かな建物が映る、ここに余韻があって
すぐにここが学校であることがわかる。
一人二人と校舎から子供たちが吐き出されるように出てきて、
カメラが静かに移動すると、アレクセイがにこやかに現れる。
この学校のシーンはワンカットなのだが、見事なシーンである

離婚をしようとしている。
ボリスとジェーニャは夫婦のケンカのシーン。
その影で12歳の一人息子、アレクセイが、声を殺して泣いている。
このシーンだけで胸が締め付けられ、
2時間、私はこの苦しさに耐えられるのかと心配になってしまいました。
その後、息子はご飯も食べられず、学校に行くといって失踪する。
愛のないヒューマンドラマのようにも思います。

一体息子は何処へ行ったのか。
捜索の過程での役に立たない警察の姿と、
捜索ボランティアという組織とその働きが描かれる
そもそも生死すら確認できない状況が延々と続いていく。
森の中の廃墟で上着が発見された以外手掛かりはない。
懸命の捜索が続く間隙をぬって父親と母親は新しいパートナーと束の間の情事を重ねる。
このエピソードは違和感を覚えると同時に希薄になった家族関係、
ロシアに蔓延する個人主義の暴走を見せつけた。
両親の優先順位が子供よりも自分の幸せという現実にはあきれるばかり。
実際この母親の母性の無さに愕然とするが、彼女の母親が更にその上を行くので、さもありなん。可哀想な子ども時代を過ごしたのだろうな。
しかし、そこから見えるのは他人への無関心。
子供が家に帰ったかもわからず、友達の人数も知らない。
不寛容の世界を夫婦を通して描いているようでもある。

結局、息子は帰ってこない。
夫婦は離婚をして、現状復旧をしているアパートの息子の部屋の窓から近所の子供たちが遊ぶ風景が見える。
ひとつの出来事があっても世界も人も変わらないと思わせる。

元夫は新に授かった子供を邪険に扱い、元妻は新たなパートナーと満たされた生活をおくっているようには見えません。
他人を愛せない人間が、相手を替えても人を愛せる訳がない。
苦い余韻が残る、良い意味で後味の悪い作品でした。

エンディングではウクライナの状勢がニュースで流れるのですが
世界で他国を愛せないロシアを風刺しているようでもありました。

最後に元妻のジャージがロシアと書いてあるのも、何か恣意的だった。
監督のロシアという国に対しての思いがあるのだろうな。
そこまでは近くて遠い国の日本人の私には、まだ理解できない。
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