愛鳥家ハチ

ラッキーの愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

ラッキー(2017年製作の映画)
3.2
ハリー・ディーンストン主演作品。老境の極みを淡々と生きる男性の日々の暮らしと、人びととの交流を描く物語。所々挿入される哲学めいた台詞には、物質主義的でありながらどこか東洋思想を思わせる仏教的なテイストが混じっており、大変含蓄がありました。

ーー牛乳
 また、質素な暮らしぶりも目を引きます。冷蔵庫にはコップに注がれた1杯の牛乳が鎮座し、そのほかは牛乳パックが数本のみ。The・ミニマリストとでも言いましょうか、家ではあまり料理をせず、行きつけのレストランで必要な栄養を摂っていることが窺われます。家では栄養価の高い牛乳さえ飲めれば良いという合理主義的な発想かもしれません。朝の1杯の牛乳、これが彼の健康習慣です。

ーー豊かさ
 確かに彼は一人暮らしではありますが、顔馴染みの地域コミュニティの中(レストラン、バー、日用品店等々)で他愛のない話をしながら、また時には哲学談義に花を咲かせながら日々を送ることができています。あまり良くない意味での"個人主義"が社会の中で進行していけば、本作の主人公のように生きることは容易ではなくなるでしょう。その意味では、彼はとても人に恵まれたラッキーな存在と言えそうです。"豊かさ"の定義は多様ですが、人との関わりによって豊かな暮らしがもたらされることは、本作の主人公がよく示してくれていました。本作は、"老いの世界の豊穣"の一端に触れることができる作品だと思います。
愛鳥家ハチ

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