kuu

さよなら、僕のマンハッタンのkuuのレビュー・感想・評価

3.8
『さよなら、僕のマンハッタン』
原題 The Only Living Boy in New York.
映倫区分 G.
製作年 2017年。上映時間 88分。
『500日のサマー』『gifted ギフテッド』のマーク・ウェブ監督が、サイモン&ガーファンクルの名曲『ニューヨークの少年(The Only Living Boy in New York)』に乗せ、ニューヨークで暮らす青年の恋愛や成長を描いたヒューマンドラマ。
未発表の優れた脚本を連ねたハリウッドの『ブラックリスト』に入っていたアラン・ローブによる脚本に、『500日のサマー』製作以前のウェブ監督がほれ込み、10年以上をかけて映画化を実現。
主演は『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』で主人公の兄テセウス役に抜擢された注目株カラム・ターナー。

今作品は、個人的に結構面白かった。
人物の性格研究、マンハッタンの雰囲気の捉え方など、ウディ・アレン作品のような色彩があり、家族、夫婦の性関係、婚外恋愛やセックスを考察しています。
また、性愛と恋愛に悩む青年の葛藤を見つめる展開をウィットに富んだシナリオで展開されてました。
ただ、遠回し表現が多くて、内容を咀嚼してる間に次々と話が展開していくのに馴れるまでは、少し忙しい感じはしました。
今作品は、サイモン&ガーファンクルの曲から取ったタイトルで、カラム・ターナーが主人公のトーマスは、作家を目指してローワー・イーストサイドで一人暮らしをしている22歳の青年。
彼はまた、ミミ(キアシー・クレモンズ)という彼が夢中になっている女性がおり、同じように想ってくれてるのか、いないのかわからない女性、彼に方向性を示してほしいだけの出版社の父(ピアース・ブロスナン)、そして崩壊寸前の母(シンシア・ニクソン)にも気をかけてます。
父親が同僚のジョアンナ(ケイト・ベッキンセール)と不倫しているという事実を偶然知ったとき、彼の人生における唯一の支えは、廊下の向かいに引っ越してきた謎の老人(ジェフ・ブリッジス)であり、彼の知るすべてが大混乱に陥る。。。
脚本家アラン・ローブの作品群を見ると、今作品は彼が手がけてきたものすべてをミキサーにかけたようなものと云われれば確かに頷かざる得ないが、そこから生み出されるものは個人的には満足のいくものばかりでした。
今作品は、複数のレベルで語られる非常に豊かな物語でありながら、メインストーリーは、すべての部分が全体をさらに良くするような形で進行していました。
カラム・ターナー演じるトーマス(眼鏡はめたらオタクっぽく、外したらイケメン)は、ミレニアル世代特有の権利意識と、オッサン世代がゲンコツ入れたくなるよな若者特有の怒りを持ってる。
しかし、同時に、これらの特性のいくつかは、オッサンが認めるよりも、もう少し普遍的なものかもしれないことに気づかせ、オッサンたちが歩んだ人生のこの時期を少し違ったレンズを通して見るようにさせる。
ベッキンセールは、兎に角、美しかった。
自分が単に自由奔放で派手好きなだけで、静かな瞬間にはそれ以上のものを持っていると皆に信じてもらいたい『もう一人の女性』という役柄で相変わらず魅力的であり、クレモンズの素晴らしい演技もある。
ブロスナン(苦い表情がまた上手い)とニクソンも、限られた時間ではあるが、トーマスの行く末を見守るのに十分な働きをしていた。
そして、ジェフ・ブリッジス。
今作品では、デュードがその知恵を存分に発揮して、まさに『デュード』になっています。
彼の演じるW.F.ジェラルドのような人物は誰にでも近くにはいるはずで、その人物がたまたまジェフ・ブリッジスであれば、なおさら素晴らしいことやろうなぁ。
小生も若いときに放浪の末たどり着いた先に出会った、アンチ石原慎太郎と云われた作家の方としばらく共にして薫陶をうけた。
その懐かしい頃を思い出し、余談がいつも過ぎますが、その方との交流は、その方の失踪で終わってますが。。。
話しは戻り、このジェフ・ブリッジスは自分のシーンを支配する達人であると同時に、共演者を自然に輝かせるギブアンドテイクを心得ていて、見ていて本当に驚かされる。
映像的には、ウェッブ監督が採用したスタイルに感銘を受けた。
それは、60年代のフランス映画に現代のアメリカ的な感覚を加えたような感じかな。
トーマスが父親の愛情をそそいだ女性についてもっと知ろうとする、ヒッチコック的なサスペンスがあり、映画を観ているうちにクールな雰囲気が増してきました。
今作品のトーンは、ストーリーにぴったりで、スタッフによる細部へのこだわりも見事に表現されています。
今作品は、インディー映画的な雰囲気はあるものの、完全に大衆向けの映画です。
カジュアルな映画好きから、熟練した映画ファンまで、あらゆる層の人が楽しめる内容になってるんじゃないかな。
よく語り、よく演じ、そして美しく撮られた作品でした。
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