B5版

ラッカは静かに虐殺されているのB5版のレビュー・感想・評価

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ISISに奪われた土地シリアのラッカで起きている虐殺の様子を撮ったドキュメンタリー。
日本ではモザイクがかけられる程の暴力的な映像が多々映るため、観るのには覚悟がいる、けれど多くの人に観てほしい作品。

ISISはカルト宗教の皮を被った殺戮集団という単純な情報しか知らなかったが、明らかに年若い声をした戦闘員、人間のやる事とは思えず作り物と錯覚したくなる虐殺の光景など、この映像からは彼らが蹂躙した土地で異常なカオスが蔓延しているありのままのシリアの現実がわかる。

現状の不安や不満から逃避するために信仰というのはありふれた新興宗教システムの一面という感じはするが、上層部が宗教を建前に他人から強奪し人の命を脅威に晒す点でISISは危険度合いが全く違う。
国から離れてもなお生存権を脅かされながら抵抗するRBSSのメンバー。
故郷では普通の学生や社会人だったのに、今は故郷を盗られて身近な人を殺されて殺害予告を受け死を逐一意識する生活に耐え続ける毎日を送っている。
恐怖は感じないと彼らの一人はそう答える。
しかし危険な異常者集団を前に、20かそこらの後ろ盾のない若者達にのしかかるべき重圧はいっそ発狂した方は余程マシなレベルかと察するに余りある。
こんなことは絶対間違っている。
2000年代に撮影された美しいシリアの街並みと幸福そうに笑う人々の写真を前に、もうそれしか言えない…

後世に残すべき映像作品であることは間違いない。
しかし命懸けで虐殺を糾弾する姿勢を素晴らしい勇気だと対岸で拍手する行為は滑稽で虚しいし、無責任に思える。
他人から英雄の冠を戴いても悲しみや恐怖は消えないだろう。日本ではウクライナもシリアもミャンマーの出来事もニュースから徐々に消えている。

これは暴力ポルノじゃなく実際起きている止めないといけない現実なんだとせめて忘却しないよう、そしてそれ以外に何ができるのか、考え続けることが大事。
B5版

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