きよぼん

終わった人のきよぼんのレビュー・感想・評価

終わった人(2018年製作の映画)
4.6
定年退職後、なーんにもやることがない人を演じるのは館ひろし。

館ひろしが、すねる、しょげる、グチを言う、若い女の子にちょっと優しくされれば調子に乗る。そんな姿をみてるだけで楽しめます。愛嬌ある姿みてるだけでニコニコになります。そしてゆるんだ笑いだけではありません。空気を締めるときはギュッとしめて、緊張感あるシーンを作り出す。やっぱり館ひろしってスターなんですよね。

生活感がない「二枚目スター」が、今作のようなコメディ色の強いホームドラマに出演するときは、両極端の方法論があります。

ひとつは、二枚目ののキャラクターを崩さずに演じ、コメディ色の周りの空気とのギャップを笑いにすること。もうひとつは反対に、二枚目のキャラクターを思いっきり崩して周りの空気と同化することです。

今作はどうなってるかというと、館ひろしは両方やってるんです。そしてまた、それが不自然にならずにできる役者さんなんです。硬軟のバランスがとれてるから、テーマはよくある話なのに、とても味わい深い映画になってるんですね。

思えば。館ひろしの、硬軟の演技を自由に切り替えるっていうのは、「あぶない刑事」の頃から、ファンを楽しませてくれていました。

あの頃のように、拳銃を撃ち、ハーレーに乗るといった姿ではありません。しかし、時がたっても、またちがった姿でファンを楽しませてくれるというのは素晴らしい!カッコ良さも保ちつつ、でも衰えた姿もかくさない。こういう生き方憧れます。もう一回言うけど、スターなんですよね。

主人公は東大卒で元銀行員、定年退職後に生活の心配はないが、時間はあるのにやることがない。仕事がしたいのに職歴や学歴が邪魔になるという悩みを持っています。いわゆる団塊の世代の、それもかなり恵まれた人であり、下の世代の、年金が出るかどうかもわからない自分にとっては「ヘっ」と鼻で笑ってやりたいような悩みです。

でもそういう恵まれた人も悩みがあるということ。誰かが何かを伝えるのって、言ってる内容よりも、「誰」が言ってるのかで全く変わります。他の誰かが言ってるなら、笑って見向きもしないことを、館ひろしという役者が演技で語ることにより、目を向けさせてくれるような、優しい眼差しをもてる映画です。

館ひろしばっかり誉めましたが、中田秀夫による映像つくりもグッド。
話はお決まりですが、なかなかの良作です。
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