カツマ

ホールド・ザ・ダーク そこにある闇のカツマのレビュー・感想・評価

3.4
今にも破裂しそうな火薬庫。その導火線にチリチリと少しずつ火が付いていく。破裂しそうで破裂しない。だが、爆発したら最後、人間の命がまるで踏み潰された虫のようにそこら中に死体となって転がる。
『グリーン・ルーム』を撮ったジェレミー・ソウルニエの新作がNetflixオリジナル映画として登場だ。どくどくと流れ出る血の描写の生々しさはこの監督の特徴だが、今作では雪山を舞台にした美しい風景描写にも挑戦。結果、彼の新境地を開いた作品になっていると思う。

ストーリーは非常に難解で意味不明。『ウインドリバー』を見ておくとバックグラウンドが理解できそう。個人的な考察はラストに。

〜あらすじ〜
アラスカ州の雪深い集落にて。そこではまだ小さな子供が狼にさらわれる事件が次々と発生していた。狼が子供をさらう瞬間は目撃されていないが、子供をさらわれた母メドラは狼の仕業と確信し、狼の行動原理に詳しい作家のラッセル・コアを呼び寄せる。狼の散策に出たコアは、雪山の中で狼の群れを発見するも、狼を射殺せずにメドラの家に帰宅。だが、メドラはおらず、仕方なく家の中を散策してみると・・。
時を同じくして兵役に就いていたメドラの夫ヴァーノンがアラスカに帰ってきていた。そんな彼のもとにある一方が寄せられる。狼の棲む集落にヴァーノンが帰ってきた時、本当の悲劇が幕を開ける・・。

本当の狼とは果たして何か。序盤の雪の降る音さえも聞こえてきそうな静かなる展開から一転、狂気の後半はもはやコーエン兄弟の『ノー・カントリー』を彷彿とさせる展開へと一気に舵を切る。
アレクサンダー・スカルスガルド演じるヴァーノンがとにかく怖い。彼に出会ったら最後、蚊を殺すような気軽さで人が死んでいく。無力な警察、閉鎖された土地。ネイティブアメリカンを彷彿とさせる集落に隠された闇とは果たして。

バイオレンスな印象から一歩踏み出したジェレミー・ソウルニエが、そこに暴力や復讐以外の何かを付与しようとした物語。まだまだ成長過程の監督かと思いますが、そろそろ次作あたりで決定的な代表作を撮ってくれるような予感もしています。


ここからはネタバレと考察が入ります。とても難解な物語でした。

まずは舞台が『ウインドリバー』で描かれたネイティブアメリカン自治区に似通った地域であるということ。頼りない警察と、警察への疑心暗鬼を隠そうとしない集落の人々。
アラスカのネイティブアメリカンの中には狼家と呼ばれ、狼や鷹のような動物を精霊として信仰する部族の存在が確認されていて(動物の仮面をかぶって踊る儀式もあるらしい)、ヴァーノンやメドラはまさにこの部族に相当すると思われる。

そこまでの舞台設定をまずは理解しつつも、それでもやはり意味不明ではあるのだが、ヒントはいくつか提示されていた。

・狼は生き残るために子供を食べてしまうことがある。
・メドラはコアに対して『狼の気持ちが理解できるんですよね?』というニュアンスのことを言う。
・ヴァーノンは無差別に殺しているように見えるが、実は殺さない人もいる。
・殺されなかった人は、恐らくその言葉や行動の中で地雷を踏んでいない。
・コアは狼を一匹も殺さなかった。

それでも言葉が少ない映画なだけに、そこからヒントを拾っても解釈していくのは難しい。人間の野生を描いているのか、それとも、ネイティブアメリカンの地域の独自性を強調したかったのか。
当たり前の感覚で見るならば、ジェフリー・ライト演じるコアが恐ろしい体験を経て、やはり自分は娘を愛しているという想いの再確認を行った映画と捉えるのもありだと思う。

長くなりましたが、
ネイティブアメリカンの信仰と野生に近い独自性と、それを体感した作家による自分探しの終着の映画だったのかなと一応結論付けました。しかし、何か他の答えがある気がします。非常にモヤモヤした作品でした(笑)
カツマ

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