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クワイエット・プレイスのFilm日記係のレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
3.6
【多少のネタバレ含む】

久々にホラー系の映画を劇場に観に行ったはずだったのだが、予想外にもSFスリラー+家族のヒューマンドラマといった感じのテイストだった。

音に反応し人間を襲う"何か"によって荒廃した世界で静かに生き延びる一組の家族。決して大きな物音を立てず、手話で会話し、素足で歩く生活。彼らは約1年前の次男の死に対してそれぞれ心に傷を負っていた。そんな家族を映した映画だった。

正直最初はホラー映画という心持ちで映画館に入ったのだが、映画が始まって30分もせずにこれはホラーではないなという印象を受けた。僕にとってのホラー映画は、「ライト・オフ」や「イット・フォローズ」のように、映画を観終わった後、自分の普段の生活で、1人で夜道を歩くのが怖くなったり、自分の部屋を真っ暗にするのに抵抗を感じたりするように、私生活でも映画の内容を自分の意識の中に植え付けてくるものであり、この映画は結構非現実的でそういう要素を持っていないので、そういう姿勢で観るのはオススメしない。

また、"何か"と表されるクリーチャーも結構序盤で姿が見えるので、2回目以降は驚いたりすることなく自然に見れてしまった。個人的には、クリーチャーが家のどこかにはいるんだけど、一体どこにいて、どんな形をしているのか分からないという緊迫感を映画の中の人物と同じように味わう場面がもっと長く欲しかった。この点でもホラー色は薄い。

だからといって映画自体は全然悪くなかった。むしろスリラー映画、又は家族の絆を描く映画としては良かった方だ。

まず何より映画が始まって30~40分の間登場人物に一言もセリフがなく、ただひたすら表情と手話だけで感情の描写や会話のやりとりを行っていたのだが、それでも登場人物の心情が観てるこちらに十分伝わるように描けていた。特に、音を立ててはいけないというシチュエーションが故に、通常言葉で表現したらありきたり過ぎてさほど感動的にならないものも、手話で表現すると胸にぐっとくるものがあり、人物への感情移入のさせ方がかなり上手かった。

また、前半にセリフがほとんどないが故に、クリーチャーが出てくる場面での効果音に対する身体の反応がより増幅されるので、いつまでもはらはらしながら観ることが出来た。

そして、作中に2~3回しかない大声を上げる場面では、何故か観ているこちらの心の底から爽快感が湧き起こる感覚になり、観ていて飽きることが全くなかった。

だが、ホラー映画にはお馴染みだが、ただただ大きな効果音でこちらを驚かせる手法が何回か見られて、それはマイナスポイントだった。

また、意外にも少々の物音は普通に立てていて、あっそれはOKなんや~って拍子抜けする部分も多かった。

結構悪い点を列挙したが、物語としては良かったと思う。伏線の貼り方を、こちらに簡単に気づかせるようにしているのも、今回の場合は逆に良かったと思うし、何より序盤で、次男がクリーチャーに殺されてしまい、そのことに対しての父、母、長女の感情が交錯し、それが終盤に一致していく様子も良く、演技も上手かった。

また、映画の終わり方が個人的には結構好きだった。一般にこの種のサバイバル系の映画は、何だかんだで脅威に打ち勝つ打開策を見出し、何だかんだでハッピーエンドで終わることが多い。もちろんこの映画も、最後にはクリーチャーへの対抗策を見出すし、ズたぼろのバッドエンドでもないのだが、完全なハッピーエンドまで見せず、ただ希望の光が一筋差し込んだところで物語が終わっており、その点はちょうど良かった。

映像についてはさほど印象に残っていないが、序盤で次男がロケットのおもちゃの電源を付けて音を出してしまうシーンの次男の映し方が、他の人物を挟んでチラ見せさせている感じは好きだった。

全体としては、観終わった後もずっと印象に残る映画ではないが、観ている最中は、ずっとはらはらドキドキでき、尚且つほんの少し涙を誘う感動をこちらに与えてくれ、結構楽しめる映画だった。

面白さ:0.7 脚本:0.7 人物:0.9
映像:0.6 音響:0.7
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