晴れない空の降らない雨

トップガン マーヴェリックの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

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 古き良き冷戦末期ハリウッド映画の手の込んだパスティーシュを成立させるために召喚された「ならず者国家」(劇中のセリフより)はどこだろうか。結論から言えば、「イラン+東欧」のハイブリッド架空国家だと思う。正確に言うと「東欧のどこかに置き換えられたイラン」だ。
 そもそも現在の国際情勢での敵国候補はロシア・中国・イラン・北朝鮮だ(シリアも現在進行形で爆撃中の敵国だがそれ故に候補になりえない)。この中でアメリカがホイホイとトマホークぶち込んで爆撃機を送ることがコンマ1%でもありうるのは、イランしかない。おまけに「ウラン濃縮する気だ」と説明していたから、こりゃもう間違いなくイランだ。だって他の国はもう核武装済みだし。つい先週も、バイデンが核武装防止を理由としたイラン攻撃の可能性について発言したばかりだ。
 
 にもかかわらず、このならず者国家はイランではない、らしい。作戦説明のくだりで「NATO条約に違反してウラン濃縮を云々」と話している。十中八九イランを連想させないためだろうが、この発言によるとなんと敵国はNATO加盟国らしい(でなければ「条約違反」しようがない)。んなアホな。非現実的な設定にすることで、本作は「リアルポリティクスのことは忘れてくださいねー」というシグナルを観客に送っているのだろう。
 実際、クライマックスで現れる相手国は、針葉樹林の広がる雪国である。また自分の友人が言うには、トムに機銃掃射したヘリは旧ソ連製らしい。だとすれば、旧東側でNATO加盟国で海に面している、というわけで候補はかなり絞られる。というか地理に詳しい人なら特定できるのでは? ま、ポーランドか旧ユーゴのどこかがモデルじゃなかろうか。あんな地形があるのか知らんけど。どちらにせよ、この見かけ上の敵国の正体がイランであることに変わりはない。