せーじ

さよならの朝に約束の花をかざろうのせーじのレビュー・感想・評価

2.0
ヒューマントラストシネマ渋谷で鑑賞。
入りは6割~7割くらいといったところだろうか。客層は岡田監督作品のファンぽい若い女性が多かった印象。

この作品が好きな人には非常に申し訳ないのだが、自分には合わなかった作品だった。というか耐えきれなかったので、生まれて初めてエンディング曲が流れ始めた時点で外に出ることにした。
出口から一番近い席でよかったと思う…

何が合わなかったのかというと「作り手が提示しようとしているこの物語の"価値観"そのものが、自分には全く合わなかった」ことに尽きる。
この作品のテーマはおそらく、家族愛などの広い意味での"愛"だと思うのだが、最終的な結論として「いつまでもお互いが常に一緒にいて、甘やかしあうことだけが理想である」と言っているようにしか思えなかった。それが個人的にはものすごく軽く、うわべだけの考えなように思えてしまう。そして、そういううわべだけの"愛"は描くのに、肝心な部分は主人公が"もぞもぞ虫"のせいにしてはぐらかしてしまったり、時間経過ですっ飛ばして省略してしまったりで、きっちりと描こうとはしていないのだ。そこに、根深い欺瞞を感じ取ってしまう。
また、人の一生を通して人間ドラマを描く以上避けては通れない"性"の問題を完全にすっ飛ばして描いているので、妊娠や出産の描写はあっても、その前のプロセスを描かないのはおかしいと思った。何も性交描写を描けとは言わないが、登場人物たちが惹かれあい愛し合うプロセスや、子供を産むことを受け入れるプロセスを描く必要は絶対にあったはずだ。
そもそもこの作品は、特殊なルールによって時制が要所要所で大幅にすっ飛ばされるが、画面上では「主人公たちの種族以外の登場人物の加齢」だけでしか語られない。それゆえ誰が誰なのかもわかりづらいうえ、言動も断片的なので、登場人物の感情の変化が追いにくい。Filmarks内でも何人かが指摘しているが、あんなに"娘"に会いたがっていた"実の母親"が、娘の顔を見たら間髪入れずに「忘れなさい、私も記録しないから」と言って飛び去るって…

このように、こういう題材を映画作品として観る上で、描いてほしいし観たいと思う部分を、この作品ではことごとくすっ飛ばしてしまっている。そんな作品なんだなこれ…と読み取れたあたりで、だんだんとイライラが募っていってしまった。主人公ではなく"彼"のほうが生き残ってしまうのか!?…みたいな展開がある訳でも無し。(一応終盤であったけど、あれではあるうちには入らんと思ったw)しかも色々あっても「約束されたエンディング」がきっちりと待っているというのが最初から提示されているので、物語上で起きた出来事についていっこも感情移入できなかったのもしんどかった…。そして、本当にその通りに何のひねりも無いまま、最後の最後できちんと愁嘆場を感動的にこなしてくださるので、サラウンドで聞こえてくる幼少時からの彼の声を聞きながら、もう無理だなこの作品…と思った次第なのであります。

たぶん根本的なところで、自分と作り手の人達の考え方や価値観が違っていて、それは絶対に相容れないものなのでしょう。
絵柄やキャラクターデザイン、音楽そのものはとても美しく、好ましいものだっただけに、非常に残念です。
せーじ

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