小松屋たから

マーウェンの小松屋たからのレビュー・感想・評価

マーウェン(2018年製作の映画)
3.8
理不尽な暴行を受けPTSDを負った主人公が、実生活で自分に優しい女性たちを人形に擬する、そして、それらを自分の理想を形にした「これぞ男」という人形の周囲にはべらせて物語を作り写真に収めていく… 精神科の「箱庭療法」の延長みたいなことなのかもしれないが、そのやっている内容は、いわゆる「ポリコレ」ギリギリ。

元々、事件前から主人公が一風変わった嗜好の持ち主なので、どうしても「共感」はしにくくなってしまうし、同情はあるとしても、模型店の女性も向かいの家に越してきた女性も、彼のやっていることを知りながら、よくあそこまで親しく接することができるな、と思う。

でも、ゼメキス監督はじめ制作サイドとしては、きっとそういった疑義が生まれることをわかった上での挑戦だったのではないか。「ヘイトクライム」というと、まずはわかりやすく人種や国籍による差別から生じる暴力と考えてしまうが、きっと、「嗜好」や「趣味」についても多様性は守られるべきだ、という考え方がベースにあって、だから、本作は昨今の世界に広がる不寛容の空気に対する、少し変わった角度からの真剣ながらも洒落っ気に溢れた「抵抗」なのではないかと思う。

そもそも、普通の映画だって、色々なキャラクターを、作り手が勝手に生み出して、好きな位置に置いて、好きなように動かそうとするものなのだから、映画作りと人形遊びは、実は、似た者どうしなのだ。

この話は、実話を基にしている、ということだが、企画をした人は、事実をリアルに再現するというよりは、その題材を、CGや様々な斬新な技術を駆使して映像化することで、映画とインスタレーション、人間と人形の境界線上で遊んでみたかったに違いない。

それぞれのキャラクター描写がやや不足していて誰の感情も行動も簡単には受け入れにくいし、主人公がトラウマを克服する過程も、暴行犯たちの態度の変わり方も結局なんだかよくわからないが、それら人間ドラマは二の次、と割り切っているのかもしれない。面白いかどうかは観た人それぞれだろうが、作り手はきっと満足していると思う。今まで見たことが無い新しい表現が実現したことは確かなのだから。

しかし、スティーヴ・カレルっていい役者さんだな、と思った。人形になっても、上手い(笑)。