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ビール・ストリートの恋人たちのmatsuitterのレビュー・感想・評価

4.1
50年代黒人コミュニティの貧困と僅かな幸せを描いたヒューマンドラマ。

ものすごい響きました。。

派手なシーンは全くないが研ぎ澄まされた音楽とゆったり長回しのカメラワークの編集がズバ抜けた完成度。こんな美しい世界は観たことがない。心象風景を撮らせたら随一の最左翼バリージェンキンス。彼の底知れぬ実力に脱帽した。傑作。

好きなところを雑記的に。(嫌いなところはない!)

映像描写。

・女性視点で展開する世界の見方。モノローグで語られる状況はシビアだが、そこに生きる人々は力強く美しい。

・下町人情劇。政治的なメッセージ性を含みつつも、主題は黒人の生活のリアル描写。そこに生きる市井の人々。日本なら寅さんとか長屋の小噺とか系。その素朴な生きざまに自分を重ねざるを得ない。

・音楽+長回し映像があまりにも素晴らしすぎる。ただの日常でも美しい瞬間があることを教えてくれる。

・友達との会話でも、左右行ったり来たりのカメラワークが微妙にいい間合いを作る。刑務所の話を本当に地獄のように話す彼の表情が、自分の親友の言葉のように感じ取れる。

・夜のシーンも露骨に性愛を見せつけるような描写ではなく、そのムーディな空間に自分がいるかのような感覚を覚える。登場人物たちと同じように相手を思いやる気持ちを体感する。

・家族でテーブルを囲むラスト。不動産屋とテーブルの話をしたことをふと思い起こさせる。ほかのたくさんの囚人たちも自分の家族とテーブルを囲っていて、そこにこそ生きる人々の強さと美しさがある。


衣装。

・時代を感じさせるスタイリングがお洒落。


演技。

・アカデミー助演女優賞を筆頭に家族全員がベストアクト。私の家族もそうあってほしい。

・中盤家族が犯罪犯すってなんだよって思ったけど、そういうのもリアルな時代だったんだね。

・警官エドスクラインがアメコミ風な顔芸で本年の胸糞キャラにノミネート笑。

さいごに。

・なんで減点しかたっていうと、単純なエンタメ映画じゃないとどうしてもつらくて。。
これは戦争映画と同じで、重いテーマは少し気持ちが下がってしまう。
私は結局楽しい映画を求めているのかしら。
ただそれでも本当に素晴らしくて大好きなので年間ベスト10に入れたい。
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