スペクター

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのスペクターのレビュー・感想・評価

4.9
コロナ禍の影響を受けて“007”が一年半先延ばしになったこともあり、
ずっと映画館にはご無沙汰していた。
“Filmarks” も遠ざかっていた。
ワクチン接種は2回共済んでいるといえども、閉鎖空間に2時間以上も
知らない人と一緒に居るというのは辛い。
映画館こそ行かないが家でテレビ映画、ディスク、レンタルなど、
映画を観る回数はむしろ以前よりも増えている。

2020.1.10の 『フォード VS フェラーリ』 以来1年9ヶ月ぶりに行くことにした。
観客が多い封切り初日10.01は避け、翌日の土・日も外した。
土・日を外す我々年配組が月曜を目指すのでそれも外し、
特典のあるシネマズデーも外し、結局10.07木曜日朝イチにした。
それでも観客30人程は来ていた。 いつものようにド真ん中の予約座席なるもソーシャルディスタンスを余裕でクリアする座席配置が確保されていた。

さて、本編。
感想第一声は “やっぱり、映画館はいいなぁ!” に尽きる。
2時間40分を超える超弩級スパイアクション大作、
これはもう映画館しかない。

オープニングがいつもの007と違う。
雪に覆われた林原のドローン映像から一軒家に行き着くと........
いつものド派手なアクションじゃないスリリングが展開される..........。
さすが、オープニングから洗練されている。 唸る!

本作『No Time to Die』(No.25)は、
ジェームズ・ボンドを演じるダニエル・クレイグのラスト作品というだけあって盛り沢山の内容となっている。
前作『Spectre』(No.24)の続編であることは、キャスティングを含めて明らかであるが
前々作『Skyfall』(No.23)を含めた3部作の完結編という見方をすると判り易い。
ところが、クレイグ・ボンドの初出演作『Casino Royale』(No.21)の
ボンドガール“ヴェスパー”(エヴァ・グリーン)を持ち出した辺りからこんがらかる人が増えてくる。
あたかも卒業アルバムである。

さらには、唯一のレーゼンビー・ボンド出演作『女王陛下の007』(No.6)の挿入歌をここに放り込んで来たからもう言うことないわ!
最初にこの曲が流れたのは、ボンドとボンドガール“マドレーヌ”(レア・セドゥ)【スペクターのミスター・ホワイト俗称ペールキングの娘】が
イタリアのマテーラの海岸が眼下に広がるハイウェイを走行中である。
ボーカルも無いほんの十数小節のメロディー部分だけである。
「マドレーヌは死ぬんじゃないか........」の予感が横切った。

というのは、(No.6)作のラストシーン、007映画史上初めてでその後も無いボンドの結婚式のあと二人がハネムーンに向かう海の見えるハイウェイで花嫁のボンドガール“テレサ”(ダイアナ・リグ)がスペクター ブロフェルドの凶弾で命を落とす。
このときにこの挿入歌 “愛はすべてを越えて” が流れてくる。
シチュエーションが重なるこの場面、監督Mr.フクナガは52年も前の作品の感慨深いシーンを忘れていなかったのである。

(No.21)作のヴェスパーはラストシーンでボンドの腕から手を離し自ら命を絶つ。
(No.23)作では“M”(ジュディー・デンチ)はラストシーンでテロリストの凶弾に倒れる。
ヒロインが次々とラストシーンで死んでいく。
しかし、本作ではこの予感は当たらなかった。 死ぬのはマドレーヌではなかった。

本作で、ボンドとマドレーヌの別離のシーンが2度ある。
1度目は、
ボンドの思い違いでマドレーヌを家に帰すシーン。
彼女を列車に残して、ボンドは背を向けて立ち去る。
マドレーヌは動き出す列車内を移動しボンドを見逃すまいとするひたむきで何とも哀れな姿。
前作の列車内でボンドと再会する満面の笑みを浮かべた姿とは対照的である。

2度目が衝撃のラストシーンである。
離島にあるテロリストの秘密基地に侵入したボンドはマドレーヌらを救出しテロリストを壊滅させるが、.............非業な運命が二人を引き裂いてしまう。

島から離れた海上のゴムボートから、マドレーヌがボンドとの愛娘“マチルダ”(リサードラ・ソネット)を胸に抱き、手にしたトランシーバーからボンドに向かって悲惨な叫び声を上げる..........
No! No Time to Die! (死なないで!)(違う!今は死ぬ時じゃない!)
We Have All the Time...........any Way of.........to be only Live!
(時間はいくらでもある、生きてさえすれば!......何か方法が........)

離島の敵基地には、自ら残ったボンドの、自ら要求した味方のミサイルが飛来する空を見上げる決断した男の顔が、背中が、画面いっぱいに映し出される。 .........感極まる場面である!

悲嘆に暮れるM16のメンバー一人一人の顔を映し出し演出効果を高めている手法は見事である。

最後にあの挿入歌が流れる。 ヴォーカル入りで。
“We have all the Time in the world just for Love 
(時間はいっぱいある、愛のための)  
nothing More nothing Less only LOVE”
(以外のものでなく、愛だけのための)

本作品の監督は、007映画史上初めての、ボンドガール レア・セドゥ の2作品連続起用を実現しただけでなく、ボンドガールの地位を、ボンドの単なる欲望の対象から対等の関係へそして愛情の対象者へと高めたのである。

上述以外の主なキャスト
【M16】
*部長 M:レイフ・ファインズ
*兵器開発課長 Q:ベン・ウィショー
*Mの秘書 マネーペニー:ナオミ・ハリス
*幕僚主任 タナー:ロリー・キニア
*女性ダブルオーエージェント ノーミ:ラシャーナ・リンチ
【CIA】
*局員 フィリックス・ライター:ジェフリー・ライト
*キューバの女性新人エージェント パロマ:アナ・デ・アルマス
キューバ出身女優、ボンドガールに最適.....次回作に出して欲しい
【テロリスト】
*本作の悪役 サフィン:ラミ・マレック
*サフィンの手下で国務省の役員を装う アッシュ:ビリー・マグヌッセン
*ロシアの細菌学者でサフィンの一味となる ヴァルド・オブルチェフ:デヴィッド・デンシック
【スペクター】
*元首領 ブロフェルド:クリストフ・ヴァルツ
*傭兵プリモ:ダリ・ベンサラ

007チーム皆さんがそれぞれ特徴ある役割を演じ切り、最高の作品になっている。

エンドロールの最後に例の “JAMES BOND WILL RETURN”
が出たが、今回としてはどうも微妙である。

“DANIEL CRAIG WILL RETURN”
はあるのか。 プロデューサーは、ダニエルが辞めることをまだ認めていない、と言ってるが。

本作品は、一コマ一コマ細部に至るまで神経が通っているというか、手を抜かず緻密に吟味されている。 それでいて、アクション作品としての大胆な骨格はブレずに貫かれている。
まさしく、監督を始めとするスタッフ陣の力量を覗わせる完成度の高い仕上がりを見せている。
次回作にも注目したい。

監督・脚本:キャリー・ジョージ・フクナガ
プロデューサー:バーバラ・ブロッコリ
音楽:ハンス・ジマー
主題歌:No Time To Die / ビリー・アイリッシュ
挿入歌:愛はすべてを越えて / ジョン・バリー (歌)ルイ・アーム・ストロング


東宝シネマズ  2021.10.7
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