朱音

バサジャウンの影の朱音のネタバレレビュー・内容・結末

バサジャウンの影(2017年製作の映画)
1.6

このレビューはネタバレを含みます

終始退屈な映画だった。
「セブン」や「羊たちの沈黙」といった名作から派生し、大量生産されてきた90年代の猟奇殺人サイコスリラーの焼き直し。
神聖に見立てられた遺体、世俗に対する義憤に駆られた犯人象が蓋を開けてみれば実に俗物的な人間、幼少期にトラウマを抱えた女性捜査官、メンター的存在、寓意性に富んだ事象などなど、挙げればきりがないほど何処かで見た様なエッセンスを詰め込み、無難でありきたりな形に仕上げたという印象で目新しさがない。

そしてフェルナンド・ゴンザレス・モリナ監督による固有の作家性のようなものがほとんど見えてこず鑑賞中に一切の見所を感じられなかった。

別に過去の名作焼き直し自体が悪いとは思わないが、現代的な再解釈なり、オリジナルスパイスをブレンドするなり、本作ならではの味わいが欲しかった。
粗製乱造とまでは言わないが正直得るものがなく、それこそ繰り返し何度も観た「セブン」や「羊たちの沈黙」を改めて観た方が良かった。

煽情的な演出もくどいし、元FBI捜査官という肩書の主人公はずっと目が潤んでて、ポロポロ涙を零す場面が多いのも気になった。
雨が降るシーンが多いが、彼女は一度も傘を差さず、雨具も身に着けず、雨ざらしで歩き回るのは不自然だし、感情とリンクさせた演出にしても古典的過ぎる。
全体的にキャスティングには適格さを感じるし、役者たちの演技にも信憑性はあるのだが、こういった演出の古臭さというか、ナンセンスな要素がそれを台無しにしている様に感じる。
唯一感心したのが幼少期の回想で、母に髪の毛を無茶苦茶に切られる虐待を受ける場面、あそこは本当に危ない、というか生理的にヒヤっとした。
多少オーバーアクト感はあるが子供の視点からするとあのくらい恐ろしかったのだろう。

森に囲まれた霧が立ち込める谷里の閉ざされた空気感を表現した映像はそれなりに美しく、整った構図、ダークトーンで湿り気を帯びたような色調で統一感がある。
それでも画面は終始暗いし、こういったヴィジョンも既に見慣れたものではあるけれど。


サイコスリラーと前述したが、本作にはオカルト要素が多く、偶然起こる出来事や、タロット占いによって真相へ近づくという唖然とするような場面もあるので、緊張感が萎えてしまった。そういう寓意なのだとしてもあまりにも見え透いている。
ラストカットのダサさがこの映画を象徴している。
朱音

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