うめまつ

カランコエの花のうめまつのレビュー・感想・評価

カランコエの花(2016年製作の映画)
3.8
確かに制作当時(2016年)、LGBT(Q+)という言葉は今ほどは浸透していなかったのかもしれない。この10年ほどでその言葉を取り巻く意識は大きく変わったように見えるけど、恐らくそれはほんの一面であり、私の視点の裏側の世界ではまだこのクラスが社会の縮図なんだろうな。本作に興味のある方はとっくに見ていらっしゃると思いますが、以下より内容に触れます。

私に花先生の事は責められない。彼女の立場になってみたら、恐らく生徒からあのような告白を受けたのは初めてで、しかもあんなに可愛らしく打ち明けてくれたのが嬉しくて「この子を世間の冷たい目から守りたい。守れるのは自分しか居ない」と思ったはずだ。そこからの行動は確かに迂闊だったのかもしれないけど、少なくとも彼女はこの世界をより良くしようと、かつ大事な生徒を守ろうと行動に移したのだ。何もしてない私に何が言えようか。私も良かれと思って行動して後悔したことなんていっぱいあるし、誰しも常に適切には振る舞えない。でも正しいと思う方に一歩踏み出す勇気を持たなくては、現状は何も変えられないのだ。結果的にはクラスの生徒達の意識を少なからず動かせただろうし。

勿論同時に桜ちゃんの事も考える。黒板にデカデカと《LGBT》と書かれた時、どんな気持ちだったんだろう。彼女自身のセクシャリティに対する認識はどの程度だったんだろう。年齢の事を考えても、まだ揺らいでいる部分も合ったんじゃないのかな。それに急に名前を付けられて「あ、私ってこの4文字の中に区分される人なんだ」と思ったかもしれない。私はこんな注意書きが必要なほど「特殊」なんだ。私の恋は「仕方のないもの」に分類されるんだ、と。まだ生まれたてのふわふわの赤ちゃんみたいな感情を、四角い箱に押し込めてラベルを貼られてしまったように私には見えた。それは他者が押し付けたりお膳立てして与えるものではなく、本人が成長過程や経験によって獲得し選ぶべきもので、そもそも窮屈ならそんな箱にさえ入る必要もないという事を、いつか肯定的に受け止められるといいな。その時に花先生が自分の味方になろうとしてくれた事も、ほんの少しだけ思い出してくれるといい。
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