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ザ・シークレットマンのotomisanのレビュー・感想・評価

ザ・シークレットマン(2017年製作の映画)
4.0
 事件と同じころ「バラキ」がテレビ放送されて証人保護プログラムなんて知ったのだが、WG事件もチクり屋がいて、FBIあたりがきっと匿ってんだろうななどとぼんやり考えてたらとんでもない。30年もたって当の副長官がそうと打ち明けて、いや魂げた。
 というのも、WG事件のような「黒い仕事」はそもそもCIAやFBIのようなエージェンシーやビュローの受け持ちで、当の汚れ役が何の謂れで更なる汚れ役、たれこみを、しかも副長官が引き受けたのか、あるいは進んでそうしたのか?合点がいかなんだ。我、関せずで済んだのではないか。または、フーバーならどうしただろう?
 話中、ニクソンの意見ではフーバーなら番犬を放って皆を黙らせた。というのだが、当時上げ潮状態の政権だからその通りだったろう。しかし、WH自体が内密にWG事件で終わる各種工作を進めていたことを知ったら放っておくだろうか。さらにそれを大統領自身が承知でいたとなると、フーバーとて大統領への値踏みはどうなったろう?
 猫も杓子も情報共有の今から半世紀前、悪さも含めて情報共有した政治のプロたちが情報のダダ洩れにいら立って始めた水漏れ検査が大統領再選の選挙戦たけなわの時期、いわば私欲のための工作になって、それを大統領も知っていて、連邦政府の強権化に反発する市民の政治監視の意識が高まるにつれ「黒い仕事」への白眼視もきつくなっている最中、さらにフーバーが死んでしまい、一気に潮目が変わってしまった。うまくやっていく相手が無くなった代わりのFBI支配の好機がナンバー2フェルトの抵抗で暗礁に乗り上げる。しかも、大統領の黒い仕事として、WP紙にNYT誌に情報を流すよう促す契機まで与えてしまう。
 このように書くと、この物語がフェルトのものなのか官邸のものなのか分からん感じだろうが、実際、官邸はフーバーの死に際して徒な押しを掛けずにフェルトとうまくやれれば、あんな大事件にならずに済んだのではないか?
 しかし、フーバーの秘密ファイルが焦点となるように、是非にも押収したい官邸と秘匿したいFBIとの攻防が真っ先に立ちはだかって両者の融和の契機が失われてしまい、やがてWG事件を迎えてあんな事になるのだが、案外遅かれ早かれ誰かの手で新聞なり野党なりに話が漏れ出たのかも知れない。なにしろ、FBIへの大統領特使グレイ長官代行自身ですらWG記事を先駆けたNYTの記者に"大統領はクロ"との心証を与えてしまっているのだから。
 この"大統領はクロ"ということの重みがじつはWG事件をめぐるいろいろな話の「胸のつかえ」のように感じられてならない。明確に告発を意識したであろう者はフェルト一人だったかもしれないが、官邸内は別にしてどれほど多くの人がこの胸のつかえを覚えていただろう。そして、その有罪性を確信して新聞に告発を促したフェルトはいわゆる「黒い仕事」が大統領まで捕らえた事に何を感じてただろう。
 それは、それ以前の大統領がそんな事、「黒い仕事」なんぞを考えもしないでいたというのではなく、汚れ役に徹し切る人間たちがもうおいそれとは組織できず、隠れもできない、トップの判断事項にせざるを得ない世の中になっているという事である。同じ事はFBIもCIAも同様で、さらにフーバーへの反発とその死が「黒い仕事」の価値をさらに損ねる事につながった。そしてフェルトは増々影が薄くなり、各種不正工作の責めを背負い込み(ここが部下思いなところなんだろう。ニクソン陣営にしても、こういう度量の人間がもう居ないという事なのだ)、レーガンに赦免され、奥さんは自殺、30年もたってのWGにまつわる告白はバニティ・フェア誌相手だそうな。どこかもの悲し気な感じがぬぐえず、せめて家出した娘が孫と一緒に戻って良かったじゃないかと思いたい。いやまさに制作サイドもそのつもりで書き加えたのではないだろうか。
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