潮騒ちゃん

デンジャラス・プリズン ー牢獄の処刑人ーの潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

4.6
どう見ても堅気ではない大男が素手で車をぶっ壊す冒頭。凶暴かつどこか侘しい所作に思わず見とれる。部品と共に散っていく怒りと傷心。穏やかに翳る画面。こんな掴まれ方をしたのは初めてかもしれない。無性にグッとくる…。そしてこのシーンで染み出たアドレナリンは、最後の最後まで静かに垂れ流され続けることになる。「デンジャラス・プリズン牢獄の処刑」はダサすぎる邦題に反して能天までシビれる映画だった。妻とお腹の娘を人質に取られた主人公ブラッドリーがデンジャラスなプリズンで大暴れするという内容に違いはないのだけれど、メインとなるのはアクションではなくブラッドリーから迸るラブだった。正真正銘の悪党である男が僅かに滲ませる心情。それを手繰り寄せながら彼のひととなりを見つめる。洗えない悪行や、冷ややかな世間。何故ブラッドリーは「全う」から見放されてしまったのか。それでも腐らずに愛を見つけたきっかけは何だったのか。詳しく描かれていない部分を想像しているだけで喉元が熱くなった。演じるヴィンス・ボーンが哀愁と激情でハートをゴリゴリと直撃してくる。大きな体に緩みはない。基本は手と足。折るも潰すも武器要らずな強靭なその肉体は、妻と生まれくる娘のためだけに意思を持つ。大切なものなんて出来るだけ少ない方がいい。たった2つの命のために握られる拳は、どこまでもわたしを震わせた。静謐な空気すら纏いながら物語は進んでいく。淡々粛々としたこの時間が間延びと言うのなら、わたしの人生なんてきっと丸ごと延びている。132分、秒単位で無駄などない。映画が終わりに近づく頃、感情の蛇口はとうとう涙も塞き止められなくなっていた。お上品に泣いてる場合じゃない気がしてグイグイ拭いながら男らしく泣いた。ゴアでエモでラブ。言うことなし。
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