mimitakoyaki

はじめてのおもてなしのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

はじめてのおもてなし(2016年製作の映画)
3.8
昨年の難民映画祭でも上映されてた本作、その時は見れなかったので、劇場公開されて良かったです。

多くの難民を受け入れているドイツにおける難民をめぐる問題や、ドイツ人の考え方、価値観、生き方の模索など、とある問題を抱えた家族に置き換えて描いたコメディです。

簡単に言ってしまえば、夫婦の愛も冷め、成人した息子は仕事人間で子どもを顧みず、娘は30になっても何をしたいかわからず自立できない、そんなハートマン一家に、妻の発案でナイジェリアの難民青年を受け入れたことで、バラバラだった家族が絆を取り戻すという、まあありがちな話ではあるのですが、難民問題をシリアスにならずに、コメディとして扱いながらも、ドイツ人が抱える様々なジレンマを家族を通して描いてるところが良かったです。

ナイジェリア人の青年ディアロから見れば、ドイツ人の家族は、おのおのが勝手で家族に敬意を払わず大事にもせず、それがおかしいと感じますが、ドイツ人のお父さんからすると、妻と言えども自分の所有物ではない、妻には妻の生き方があると言います。

またディアロは、30歳になってもモラトリアムな娘ゾフィに、結婚して子どもを持つべきと言いますが、ゾフィは、ドイツでは女性も勉強したりいろんな仕事に就いたりして、決して結婚したり子どもを持たなければならないわけではなく、それは自由だと言います。

こうした、生き方や家族観の違いもどちらが正しいとか間違ってるとかではなく、それぞれの考えの違いがあるという感じで描かれています。

アフリカとヨーロッパのいろんなギャップを見せながら、それぞれ違いはあるが、その多様性がおもしろかったり、互いの刺激になったりもして、多文化共生の社会についてポジティブに描いているのも好感が持てました。

ドタバタといろんな問題が起きて賑やかですが、家族思いの穏やかなディアロも、故郷のナイジェリアで壮絶な経験をし、深い悲しみと大きな心の傷を負いながらドイツまで逃れてきた事が語られると、戦争がもたらす罪の大きさをあたらめて感じ、簡単な事ではないけれど、やはり人道的に世界が協力して難民の人達をなんとか助けるべきだと思いました。

ハートマン家の孫の男の子が人を撃って殺すゲームをやってるのを、ディアロが横で見て複雑な表情をしているシーンがあり、ほんとに悪気なくやってる事なんだけど、家族が武装組織に殺されたりしてる人が、それを子どもがゲームで楽しんでるのを見た時、どんな気持ちになるんだろうと思いました。
映画の中でも描かれていましたが、人々の何気ない悪意のない言動が当事者を傷つけることって、きっといっぱいあるのでしょうね。
差別や偏見を持たれることも当たり前にあって、いくら積極的に難民を受け入れてるドイツでも、難民が生きていくというのは多くの困難があるんだと思いました。

あと、ハートマン家の息子はかなりのワーカホリックで、ドイツ人でもこんな人いるんだとちょっと驚きました。
ワーカホリックは日本の専売特許かと 笑。
まあでも、ドイツではそれは精神疾患として扱われていましたけどね。
日本人なら常態的にサビ残で長時間働かされてるのような人なんて普通にいっぱいいるので、そんな人はドイツではみんな入院させられるかもですよ。

難民問題だけでなく、ドイツの事もいろいろ知れる良い作品でした。

8
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