うめまつ

判決、ふたつの希望のうめまつのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.2
怒りは単純なようでいて最も複雑な感情なのかもしれない。こちらの一言が相手の中に燻っている何に火を付けるかわからない。怒りの底には失った喜びや癒えない悲しみや吐き出せない苦しみや煮詰まった悔しさが渦巻いていて、ほんの些細なきっかけで化学反応を起こすように〝怒り″に姿を変えて身体の外に飛び出す。怒っている人は内心では悲しんで悲しんで悲しみ尽くした人かもしれない、という事を忘れないようにしよう。単純に怒りっぽい人は苦手だけど。

何処を切り取っても丸ごと人間ドラマだった。レバノン人とかパレスチナ人とかイスラム教徒とかキリスト教徒とかそんな高い垣根の道を通りつつも、最後は全部取っ払って開けた場所に辿り着く。隣近所のおじさん二人の揉め事かと思うくらいの臨場感があったし、そう感じさせる無駄のない脚本や伝わる台詞選び、的確な撮影や引き込む編集のセンスに舌を巻いた。もちろん生まれた国に翻弄された二人の苦しみを日本人の私が理解することは難しいけど、憤りも葛藤も許しも正義も優しさも希望も全部きっちりふたつずつ受け取れたと思う。この〝どっちもどっち感″に着地させる塩梅も本当に上手かった。

正直最初は〝謝罪=敗北″だと決めつけてる似た者同士の頑固オヤジを見て「これだから男の意地ってやつは面倒だ」と思ったし実際それも多分にあると思う。どちらかが女性もしくは女性同士だったらこじれる前に表面は笑って謝って、後で誰かに愚痴聞いてもらえばさっぱり終わるはず。お互いの奥さんの冷静さが物語ってる。女は男の知らないところでそうして地球を回しているので、少しくらい感謝して欲しいものだと思った。宗派の前に民族の前に女は女である。
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