せーじ

悲しみに、こんにちはのせーじのレビュー・感想・評価

悲しみに、こんにちは(2017年製作の映画)
4.1
215本目。
普段自分はTSUTAYAで一回に大体三枚ほど借りるんですけど、二枚決めた後三枚目をどうするかでかなり時間をかけてしまうことが多いのです。何も考えずに「これ!」と思う作品を探すのって結構難しいんですよね。有名な観てない作品でも「今これを観る気分じゃないしなぁ…」ってなることが多かったりしますし、だからと言って二枚で探すのをやめるのも勿体ないよなぁと思ってしまったり。なので、この作品のジャケットを観た時は正直ちょっと嬉しかったです。出会えたなっていうか。
そして実際、シンプルながらとても丁寧に作られた作品で、すごく良かったです。

物語は1993年の夏、スペインが舞台。
バルセロナに住んでいた六歳の少女フリダは"ある病気"で両親を亡くしてしまい、80kmほど離れたカタルーニャに住む若い叔父夫婦に預けられることになるけれども―というお話。
まず印象的だったのが、カメラワークと子供たちの演技。基本的には手持ち撮影主体で、徹底的に主人公であるフリダの目線で撮られているのだが、どこからが演技なのかがわからないくらい子供たちの動きが自然すぎて目を見張ってしまった。だが、実在感がとんでもないレベルなのに、ドキュメンタリーの様に撮り方に形式ばったところがある訳では無いし、かといってホームビデオの様なラフさが前面に出過ぎている感じでもない。そのうえ、フリダが妙に大人っぽい憂いを帯びた表情をしているので、そこで彼女の内面をもっと知りたくなるという「興味の持続」が巻き起こることになって、不思議と目が離せなくなってしまう。そういう意味では、かなり没入感が強い作品だと感じた。

加えて"ある病気"が何であるのかと、それに関連して亡くなった両親や自分がどう思われているかが示唆される「大人たちのリアクション」や「顔の見えない会話」が、どこまでも子供の視点で写されていくので「彼女がどう思われていると思っているのか」が観客にも分かり易く追体験できる作りになっており、とても巧いなと思うのと同時に、胸が強く締めつけられてしまう。「ある出来事で、瞬時に"それ"を知る」のではなく、「彼女による様々な経験が蓄積して、徐々にどういうことなのかを知っていく」という構造にしているというのがすごくリアルだし、だからこそエンディングのくだりで思わず落涙してしまうのだろうと思う。叔父一家と「そして家族になる」というプロセスを、どこまでも丁寧に描いているなぁと思いました。

ただ、いわゆる劇映画的な「イベント」がホイホイ起こる作品ではないですし、テンポは比較的ゆっくり目なので、没入することが出来ないと退屈だと思ってしまうかもしれません。また、主人公の女の子はいわゆる「いい子」では無いので、感情移入が出来ないと厳しいかもしれないです。
自分はジャケットにトゥンクと惹かれて借りたクチなので、そんなことはどうでも良かったんですけどね。(変な意味ではないですよ?)
夏を舞台にした作品なので、夏の終わりのこの季節に観るというのもいいかもしれません。ぜひぜひ。
せーじ

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