B5版

ジュリアンのB5版のレビュー・感想・評価

ジュリアン(2017年製作の映画)
3.2
てっきり泥沼離婚からの親権争いで、双方への愛情の板挟みに苦しむ子供の話かと思ってたら違った。
共同親権がいかに理想化された幻想であるかという現代の矛盾を扱うドラマでした。

全編通してなかなか音が耳障りでホラー映画の様相もある今作は、監督がDV被害者は音に敏感という知見から来たものらしいですね。
観客は主人公ジュリアンの目線を通し、血の繋がった悪魔もいることを追体験する。
家庭とは一種の治外法権社会ですね。

主人公役のトーマス・ジオリア君かわいい。
引っ越しにワクワクする年相応の顔の一方で身を縮めて表情筋が凍りつく姿、
母を守るため怯えながらもいじらしく子供の頭で必死に対処しようとする演技、初主演とは思えない芸達者ぶりでした。
主役だけでなく役者の演技にはリアリティがあって終始ゾッとした。
全体的に良かったが父アントワーヌ役の被害者意識が肥大した男性像は迫力があった。
DVの加害者の"家族とは所有物であり、所有者の抵抗=俺に対する攻撃"という支離滅裂な被害妄想の言動のリアリティといい、警察も中々頼らずにただ萎縮する母子の姿など、家庭内で起きる暴力の可視化の難しさ、暴力がエスカレートして法の抜け穴から忍び寄ってくる描写にえぐい…と辟易すると同時に、今そこにある問題の意識への細やかさに感心しました。

作中のお姉ちゃん周りの描写の意図がわからなかったんですが、
男女に起きる問題の深刻さは初めからどうやっても公平にはなり得えない、という示唆なのでしょうか。
コメンタリーがあれば聞きたい。
B5版

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