ゆりな

パンとバスと2度目のハツコイのゆりなのレビュー・感想・評価

4.0
「子どもの名前なんていうの?」
「友達の友に夫で“ともお”」
「響きが可愛いね。」

ポスターや公式サイトの「こじらせ女子のモヤキュンラブストーリー」って言葉に騙されるな。
そんなに生温くない、どちらかと言えば「愛がなんだってんだよ、見返りとか求めてんのかよバカ野郎」って「愛がなんだ」でテルちゃんがブチギレるシーンに通ずるものがある、愛と孤独の話。

「かそけきサンカヨウ」の前に今泉作品を何かしらと思い。
深川麻衣ちゃんかわよ〜。「愛がなんだ」のテルちゃんみたいな幼さがあり、弘中ちゃんみたいな少女感。だけど外見と打って変わって中身はクールだ。

「愛がなんだ」「街の上で」を観た時も思ったけれど、今泉監督って何でも撮れるんだなぁって印象。だからどう、とかじゃないんだけど、「愛がなんだ」のザラついた夜の感じ、「街の上で」の黄色い光り、本作の立川の質素で爽やかな青い感じ。
私この映画のお相手役、ずっと原田泰造だと思ってたんですよね、なんで??

私の友達にも主人公のふみみたいに、可愛くてそこそこモテるんだけど、恋愛感情を持てない子が数人いる。彼女たちがキラキラしてる理由は、好きなものがいっぱいあって趣味で忙しいからでなんなら少女漫画が好きなんだけど、なぜか男性を好きにならない。(でも良い意味で人生充実しているから、ほっといてという感じ)

今泉監督作品に出てくる女の子は、男性監督が描くには珍しく、女の子の嫌な面や人間らしいドロッとしたキツい一面が出てくるシーンが必ずある。ぶつかる。キレる。
けれども他の邦画と違ってバカにしていない。コメディでありながらも、人が怒るところを描ききっている。
女の子がみんなヒロインでマドンナである必要がないところ、大好きです。

このゆるい雰囲気も、バス運転手の設定も、絶対、ジャームッシュ観たよね?って思ったら、今年話題になっていた「キング・オブ・コント」の「コーヒー&シガレッツ」風のオープニング、今泉監督だったんだ……繋がったぞ。
宅飲み、いや自宅でノンアルコールを飲むたどたどしい雰囲気を描くのが、好きなんだろうね。
私は人の家の床に座ってお茶を飲む(アルコールありは大好き)のが苦手だから、憧れすらある。

「愛がなんだ」でも似たレビュー書いたけど、この二作はねほりんぱほりんの「トップヲタ」の回なんだよ。
生きることを基本退屈だととらえるのなら、「ラ・ラ・ランド」で夢を追っていたように、愛とか生きる目的とか燃料が人には必要(みたい)なんだよ。

わたしは何かと不安な幼少期だったので、大人になって明日の心配をせず一日を暮らせるだけでハッピーという、対極にいるけれど、どっちが良い悪いじゃなくて、たまに交差点で交わるであろう、わたしの生き方もテルちゃん・ふみの生き方も正解で。
各々が世間から見たステレオタイプの幸せにとらわれず、惑わされず、自信を持って楽しく生きられたら。
それは、これまでの嫌なことに復讐できるくらい勝ち組の生き方だよ!

だから今泉監督の作品って、観た後に胸がほわっとするし、背中を押された気分にどこかなるんだと思う。(ってめちゃ熱くなってしまった)

以下ネタバレ。


・ラストシーンの意味が分からず、えーって思っていたのだけど、町山智浩の「愛がなんだ」の解説聞いて納得。「愛がなんだ」に繋がるものがある本作は、生温いラブストーリーなんかじゃなくて「孤独」と「生きること」について描いている。
初めから面白かった!って作品も好きだけど、こうやってモヤモヤを残し、それが解説で謎解きできる作品も大好きだよ、わたしは。

・たもつが他の人を好きであるほど、惹かれて好きになるふみちゃん。なるほどなぁ。

・本作がつまらないって言ってる人は、純粋に可愛い邦画のラブストーリーを求めて来た人なんじゃないかな。そもそも今泉監督作品はポスターでは恋愛映画に見せかけた、中身はどヒューマンなんだから、仕方ないと思う!
一時の恋愛を切り取った浅い映画じゃなくて、孤独と向き合う深い内容。好きな人は好き、置いてけぼりな人は置いてけぼりな映画だと思った。

・多分若い子のコメントだと「なんとなく分かる」って声もちらほら。わたしは恋愛も恋バナも好きだけど、みんながみんなそうじゃないよなぁと改めて思った。
ふみの幸せを願わずにはいられないけど、彼女の幸せが「たもつと恋人になること」だなんて決めつけるのはそれこそ、いけなくって(付き合って欲しいなんて一言も言っていない)。
夜景の見える高級レストランに幸せを感じる人もいれば、深夜の誰もいないコンビニの前でアイスを齧るのが幸せな人だっている。そうゆうことじゃない?ましてや初恋なんだし。ふみが早起きすれば見えるけどって明言してるけど、あえてパン屋で早起きして朝焼けを見る理由だってそう。

・東京国際映画祭で見逃して、そのあとずっと後悔してたのですが、むしろあのときだったらここまで色々考ず、ぼやーっとしてただろうな。今会えてよかった!
ゆりな

ゆりな