mimitakoyaki

詩人の恋のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

詩人の恋(2017年製作の映画)
4.1
ヤンイクチュンの素晴らしさを再確認できる作品。
「息もできない」や「あゝ、荒野」で特徴的な人物を演じてましたが、同じ人とは思えません。

今作では中年体型のうだつの上がらない詩人テッキの役ですが、泣かず飛ばずで稼ぎがないので妻に養ってもらい、詩の同好会では酷評されて余計に自信なくなるし、小学校の作文の講師のバイトをしてても、小学生にからかわれるし、ほんとにパッとしない気弱な中年なんです。

日本もそうですが、韓国でも、男性で稼ぎがないとなると、「男のくせに」って思われて、ほんとに肩身が狭いと言うか、毎日情けない気持ちになって自尊心が削られまくると思います。

妻はあっけらかんとした性格で、売れない詩人でもテッキを愛してくれますが、妻が子どもを欲しがって妊活に精を出すようになるものの、自分は全くそんな気になれず、コミカルに描かれてはいるものの、妻とテッキの温度差やすれ違いがはじめからあります。

テッキは、新しくできた近所のドーナツ屋で働く若い男の子セユンのことがだんだん気になってきますが、セユンの家は貧しくて、父親は寝たきりでセユンが介護もしていることを知り、何とか助けたいという気持ちになり、ちょっとした援助するようになります。

テッキには、それが恋なのか同情なのか何なのか自分でもわからず戸惑います。
でもセユンはテッキにとって特別な存在だし、彼との間に起きるささやかな出来事に一喜一憂し、それが詩にもなっていき、これまで平坦だった人生にさざ波が立っていく様子がリアルだし、稼ぎがないから自信もない既婚の中年男性が、20歳前後の若い男の子に恋をするって、もうどうしていいかわからんですものね、戸惑いやトキメキや同情や哀しみや、いろんな感情が混ぜこぜになって、それをヤンイクチュンがとっても繊細に表現してみせるのが、とても良かったんです。

セユンだって、テッキに対してどういう感情なのか自分でもわからなかったと思うし、恵まれない家庭で育ち、自分を理解しようとしてくれ、大切にしてくれ、優しさや安らぎを感じられる人の存在を渇望していたセユンにとって、テッキはそういう存在だったけど、自分が同性を好きになるって事への戸惑いはもちろん大きいし、周りからどう見られるかってこともあるので、そのあいまいな2人の関係性や距離感もとてもリアルに思えました。

ああ、最後はそうなったのか…と思いきや、ハッとさせるラストカットがとても心に残り、切なくなりますが、自分だけの人生じゃないから、踏み出せない事や自分の胸の内だけに留めておくしかないって色々あると思います。
だけどテッキは詩人なので、その人生のままならなさも悲しみも美しさも、詩として昇華させることができるんですよね。
詩はわたしにはよくわかりませんけども、テッキはセユンへの思いを詩の世界に綴じ込めながら生きていくんだなと思いました。

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