小松屋たから

ファイティング・ファミリーの小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.5
正直、プロレスの試合は生でもテレビでもあまり観たことは無いのだけれど、プロレス関連の本は面白い。

最近は、昭和プロレスの懐古、告白本がたくさん出版されていて、特にファンでも無く、詳しくもないのに、結構読んでしまう。プロレスラーって、人生を剥き出しにしながら闘っていて、仲間、団体、家庭などのリアルな人間関係のゴタゴタが、リング上と境目なく同じ地平で繋がっている。現実と虚構の違いを見失う危険性を常に抱えながら生き抜いていく様がそれぞれ個性的で面白いからかもしれない。

この映画は、そういった、「暗い情念」からはかけ離れた、近年、稀に見る「王道のスポ魂」サクセスストーリー。最下層からの成り上がり、家族の分裂と和解、仲間たちとの反目から友情への変化、挫折からの復活、と、ストーリーもキャラクターも、とにかく教科書的で、実話ベースとはいえ、昨今の映画では、もう少し変化というか捻りを入れないと、脚本家が怒られそうな気がするが、何もなくまっすぐなところが、かえって新しいとも言える。

WWEのプロモーション的な要素も強いので、その舞台裏を見られる、ということでは、ファンはより楽しめるかも。試合のシーンなどは実際の会場を使っているので、そこには「嘘」はなく、プロレスという大観衆を惹きつける一大エンターテインメントを造り上げる壮大な努力へのリスペクトは随所に感じられる。観客にフェイクは通じない、という言葉には、心を動かされる。

ただ、ひねくれた人間としては、やっぱり、昭和プロレス本や、ミッキー・ロークの「レスラー」に込められているような情念と執念のぶつかり合いを期待していたことは確か。ちょっと下品な会話の応酬がテンポよく映画を盛り上げるが、その他は、自分にとってはあまりに健康的な映画でした。