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予兆 散歩する侵略者 劇場版のshxtpieのレビュー・感想・評価

3.5
『散歩する侵略者』よりも、断然こっちの『予兆』のほうがいい……。黒沢清は高橋洋と組むと、いい映画を撮る。ただ、プロットは行ったり来たりが多いというか、同じ場所を往復するところが多くて、ちょっと飽きる(ドラマ版だと、そのあたりはまだいいのかもしれない)。とにかく不安げな表情で怖がりつづける夏帆と、それをひたすらに追うカメラ。終盤、実に黒沢らしい廃倉庫で夏帆が東出昌大を探すシーンが素晴らしい(それだけに、銃撃戦の描写が雑で、ちょっと残念だった)。あとは、やはり夏帆と染谷の家の映しかた。これを見たあと、『散歩する侵略者』をちらっと見てみたら、画的にもやっぱりこっちだ、と思った。

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2023年9月17日追記。サマソニの配信を見るためだけに入ったWOWOWオンデマンド。けっきょく配信されている作品がたいしたことなかったので、その後なにも見なかったのだけれど、無料期間の最終日に『予兆 散歩する侵略者』のドラマ版だけを見ることにした。ドラマ版はなぜかFilmarksに登録されていないので、感想をこちらに記す(ドラマ版も登録してほしい)。

27分59秒の4エピソードと34分59秒の最終話からなる全5話のドラマ版は、劇場版とほとんど変わりがなかった(劇場版は120分に収められそうだが)。元々の作品が悪くないので、がっかりはしなかったのだけれど、黒沢清ファンとしては一応見ておくことが大事?

黒沢が脚本家の高橋洋とひさしぶりに組んだ『予兆』は、完全にホラーとしてつくられている。物足りなさはあるものの、とてもいい。黒沢清が監督したドラマといえば、『贖罪』がある。とはいえ、あれはあまりよくなかった。いっぽう『予兆』は、やはり高橋の脚本との相性がいいのか、完成度が高く、よくできている。『学校の怪談』などを思いださせるところすらある、静かで緊張感のあるホラーなのだ。そもそも『散歩する侵略者』はSFとしてはちゃんとつくられていないところがダメさの要因のひとつなので、ホラーにしてしまうのは正解。薄暗くて、ざらついた質感の映像もいい。

第一話の、家の玄関を映すシンメントリーなトップカットからして、なかなか不思議でいい構図(このカットは劇中、3回ほど繰り返される)。その次から、いきなりかなりの長回しで、空気がひりひりしている。異様な効果音とともに鏡が震える病院でのカットが素晴らしい。第一話は、不穏さが支配的だが、構図はかなりきまっており、撮影は冴えまくり、工夫されていてしびれる。夏帆のスタイリングの地味さと薄いメイク。

第二話。編集による大胆な省略がある。第三話。人間を生き埋めにしようとする東出昌大と染谷将太が、相手の足元ではなく顔から容赦なく土をかけていくところに非人間性が表れていて、ちょっと笑える。ラストカットは、夏帆がカメラをまっすぐ見据えて、決意を見せる。夏帆、眼が大きい。かわいい。第四話。死の恐怖を学んだのに、それを楽しんでいる東出。サイコパス宇宙人が似合いすぎていて、眼つきがあまりにもこわい。

そして、最終話。大杉漣が出てきたあたりからドラマがどんどん安っぽく、馬鹿馬鹿しくなっていく。拘束された東出は、『羊たちの沈黙』のオマージュ? 第一話の反復がある。二度めの夏帆の予知夢のシーンは『リング』風? 逃避行のシーンで、お決まりのスクリーンプロセスがついに登場。車での移動の行ったり来たりなど、このあたりのプロットの無駄さは上の感想にも書いた。緊張が弛緩してしまっているのだ。東出にぶん投げられる夏帆、パンツが見えそうになってしまう。廃工場の「仕掛け」のギャグっぽさは黒沢清印か。終盤、東出はゾンビかモンスターに変貌。ここから、夏帆が恐怖に怯えながら工場の中を進んでいくシークエンスが、『復讐』や『CURE』を想起させるもので素晴らしい。
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