サラリーマン岡崎

娼年のサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

娼年(2018年製作の映画)
4.5
「剃刀で切られるのって、1回目と30回目じゃ違うんだよ!そんな話、居酒屋とかで飲みながら語りたいよ」
劇中、ある登場人物がこう語る。
この台詞が全てを物語っている。

劇中、ちょっと変わった性癖を持つ人々が現れる。
焦らされるのが好き、放尿を見られるのが好き、妻が犯されているのを見るのが好き、手を握っただけでイける、そして、SM。
「普通」でセックスもそんな興味がない主人公の目から彼女たちが映される。
観客たちもそこから彼女たちの性癖をだんだんと理解していけるつくりになっている。

彼女たちは身なりはとてもしっかりしている。
まるで、その性癖を隠すように。
体裁を気にする社会だから、というより、
どこの社会でも隠さざるおえない。
話したいけど、話せない。
そんな奥深い人間性を人間に無関心だった主人公は知っていき、
人間の面白さに目覚める。

そうやって、理解の最骨頂まで行った時に、
「普通」だった時の友に軽蔑される。
その友の気持ちもわかる。
観客たちも主人公の客たちの気持ちを理解した先にその展開が来るので、
正直、この売春が良いものなのか悪いものなのかわからなくなってくる。
HIVの話も出てきて、またわからなくなる。

でも、それはどこまでが良い悪いとかではないと思う。
自由を解放したい、その解放をしてあげたいとお互いが思っていれば良いと僕は思う
(ただの道具としての売春は確かに悪い)。
でも、そこはいままで僕等がいた「普通」の社会とは違うところに行ってしまうことがとても悲しい。
現実だ。

誰にだって、隠さなければいけないことはある。
隠して隠し通すことで、主人公の様に閉鎖的になることもある(実際に主人公もそういう背景はある)。
自己防衛を張って、自己開示ができなくなる。
それは性だけのものじゃなく。
そういう人々が抱えている重荷を少し降ろしてくれる様な映画。
なんか、少しくらいハメ外したっていいかも、と自分も肩の荷が降りた気がする。

劇中、ベット(ベットだけじゃないところもあるけど)という2人ないし3人の空間の中で、ほぼその人物たちのアップが占める。
周りのものは極力映さない。
その中で2人きりという少し窮屈だけど親密ないい息苦しさを
劇作家三浦大輔だからこそ撮れる空間演出が見事…。
セックスシーンもエロいというより、
サスペンスアクションを見ている様なスリルがそこから味わえるから、
それもすごい。

ところどころ、笑っていいのか(多分いいんだと思う)わからないシーンが連発して、
爆笑したいけど、爆笑できない変な感じだった。
松坂桃李そんなに体が綺麗じゃないね。
それもリアルでいいね笑