カツマ

ファントム・スレッドのカツマのレビュー・感想・評価

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.3
愛は呪いか、それとも救済か。美しいものと醜いものは表裏一体なのか。網の目のように強情に縫い込まれた呪縛の正体が一つのシミからワラワラとほつれ出し、醜いと思っていたドレスに見出した新しい美。醜さもまた愛であり、全てが美しい瞬間ならばそれは愛ではないのかもしれない。
束縛するのもされるのも愛の形か、それは狂気と呼ぶにはあまりにロマンチックだった。
アカデミー賞主演男優賞を三度受賞した名優ダニエル・デイ・ルイスが引退作に選んだのは、現映画界屈指のカリスマ、ポール・トーマス・アンダーソン作品。名優への花道を飾らせる大団円を、厳かなピアノの旋律が美しく狂い咲いた時間の終わりを告げていく。

1950年代のロンドン。ファッションデザイナー、レイノルズ・ウッドコックは社交界の女性から愛用される豪華絢爛なドレスを生み出してきた。姉のシリルが常に彼を影のようにサポートし、ウッドコックのブランドは確固たる地位を築いていた。
レイノルズはプライベートで訪れた別荘近くのホテルで、ウェイトレスのアルマと出会い恋に落ちる。彼女はモデルとして完璧なスタイルを持ち、レイノルズは彼女に似合うドレスを即座に仕立てるほど入れあげる。
レイノルズはいまだ未婚。アルマのレイノルズへの愛は日に日に大きくなっていくが、レイノルズの心の中に長年巣食っているものが邪魔をし・・。

劇中をエレガントに縫い上げるピアノの音色はレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドによるもの。実は泥々の愛憎劇のはずが、そこには常に気品が漂い、気付いたらこちらまで愛の魔力に洗脳されていた。

束縛を解くには新しい束縛を。愛を奪うなら更に激しい愛を。毒を治すなら更に死にたくなるほどの毒を。味覚も分からないくらいの愛があったなら、それはもう幸せと呼んでもいいのかもしれない。
カツマ

カツマ