ろ

プーと大人になった僕のろのレビュー・感想・評価

プーと大人になった僕(2018年製作の映画)
5.0


さいごに訪れたのは、いつだろう。
わたしは児童書が並ぶ部屋にゆっくりと入りました。
とびらにはカラフルな画用紙で作られたうさぎやくま。「ようこそ!」と迎えてくれます。

部屋には、なじみのある背表紙が身を寄せ合っていました。
「大どろぼうホッツェンプロッツ」「ジュディ・モードとなかまたち」、それから世界各国のむかしばなし・・・
アッ!
とびこんできたのは、「クマのプーさん」でした。

書棚のまえで、パラパラとページを繰りながら、
「ねぇ、映画が公開になるまで、この本を読んでみない?」
「うん、そうしようかな」
わたしはこっそり、こころのなかのわたしと おはなしをして、それからこの本をよんでみることにしました。


読み進めると、わたしが想像していたのとは少しちがうプーさんが、ひょっこり顔を出しました。
100エーカーの森に突然やってきたカンガとルー親子に戸惑うプー、ピグレット、ラビットの三人がルーを誘拐するけれど、さいごはなかよしになる話。
ピグレットが大洪水にあって、プーが機転をきかせて助けに行く話。
森の住民たちは、まいにち、みんな仲良くお茶会をしているわけじゃない。彼らには大きな不安や心配事がたくさんあるけれど、同じくらい大きな喜びを味わっている。
「ああそうか、ここにいるのは、わたしたちだったんだなぁ」


“さよなら”からはじまる「プーと大人になった僕」。

寄宿学校に通うため、100エーカーの森とお別れしたクリストファー・ロビン。
長い年月を経て、ついにきた再会のとき。
ほんとうは嬉しいはずのそれは、プーにとって ちょっぴりかなしいものでした。


「“なにもしない”ってことは、最高のなにかに繋がるんだ」
むかしプーに言って聞かせたことばも、もう忘れてしまったクリストファー。
仕事という名のゾゾに襲われ、上司という名のモモンガ-に食われそうになる彼は、かつての仲間たちと一緒でも、頭の中で膨らむあらゆる恐怖から逃れることができません。

そんなクリストファーを追って、なんとかロン・ドンに向かおうとするプーたち。そこに現れたのは、プーと同じように寂しい想いを抱えるひとりの少女でした。


いつも病院の先生が決まっていうこと。
それは「たのしいことだけを考えて下さいね。たのしいことをたくさんして過ごしてください」。
わたしはずっと、そのことばをあまり気に留めずにいました。
でも、「そういえばむかし好きだったことを、またよくやるようになったな」ってことに最近気が付いたんです。
消しゴム板でハンコを彫ること。本を読むこと。編み物をすること。日記をつけること。
たのしいことを考えてみる。むかし夢中になっていたことを久しぶりにやってみる。
それは、ほんとうの自分に会いに行くための、とても大事なことなのかもしれません。

「わたしたちが、クマのプーやミツバチとお友だちになり、さて、お話ははじまります」



( ..)φ

帰りの電車から、ロンドンみたいにどんよりとした空を眺め、「トイストーリー」の “When She Loved Me”を聴いていると、なにやらこみ上げるものがあって、泣いてしまいました。
「プーと大人になった僕」は、あたたかくて切ない、うつくしい物語だったんですね。
ろ