ろ

万引き家族のろのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.0

世の中という大きな大きな魚に食べられないように、小さなぼくたちは体を寄せ合って生きていた。
スイミーのお話では彼一人が目になったけれど、ぼくたちは代わりばんこにその役を担った。

「物事には二面性がある」
先日観た「ワンダー 君は太陽」の校長先生が言っていた。
だけど、多くのメディアはある一面しか流さない。
淡々と語られる表面的な“事実”はとても分かりやすく、わたしたちは簡単に鵜呑みにする。そうして世の中がつくった常識や価値観にむしばまれてゆく。

大学に通っていたとき、学科の先生たちはみんな口を揃えてこう言った。
「日本国内のすべての新聞を読んでも、世界中の新聞をチェックしても、ほんとうのことなんて分かりっこない。だって書いていないんだもの。」
いま、わたしの中で、この言葉の存在感が強まっているように感じる。

家族が散り散りになって、長男は施設に入れられた。と、映画の中では流れるように語られる。
でも、実際に苦労して施設を運営されていた人のことをわたしは知っている。
「運営するだけが大変だと思っているだろう。彼らに歩み寄ることだけが大変だと思っているだろう。違うんだよ。施設を建てる段階で近隣住民から猛反対されて、行き場もなくって、もうクタクタになった」
映画に描かれる一面を観たところで、人の意識は変わるはずがない。
ニュースで流れているあれこれがただの“誘拐”や“犯罪”という言葉で片付けられてしまえば、多くの人は白い目で見る。
慮ることのむずかしさ、残酷だ。

映画を観終えて思ったのは、“普通”は“特別”だということ。
たとえば、テレビでよくある健康番組。
あれを食べれば健康になります、これをすれば…。
それはね、“前提”ありきの話なんだ。
みんながみんな、好きなものを食べることができるのか、食べたいものがいつでも手に入るのか。
そうやって考えていくと“普通”や“当たり前”がガラガラと音を立てて崩れ始める。

映画に出てきた一家は世の中という魚に飲まれてしまったのだろうか。

わたしたちはもうとっくの昔に、食べられてしまったようだ。







※コメント欄 自主閉鎖中m(__)m
ろ