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万引き家族のymdのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.8
ドキュメンタリー出身の是枝裕和ならではのどこか醒めた視点が根底に流れている。
家族の内側を通して描かれる温もりのある前半と、”社会”というフィルターを介した後半への文字通りの反転は、社会意識が持つ残酷さと抑圧的にならざるを得ない限界をドライに描いている。

「正しさとはなにか」を問い続けるこの映画の深遠さは『誰も知らない』や『そして父になる』などのこれまでの是枝作品と同様だけど、それらよりもある意味ではポップで明るい作品になっているというのがすごい。

血がつながっていることだけが家族の証明なのか、その枠組みから外れて幸せになることは許されぬことなのか。ものすごくヘヴィな題材というのにまるで暗澹たる気持ちにさせずに、むしろポジティブさすら感じる着地に仕上げている。

是枝裕和の最大の武器の一つである子どもを自然に撮る、という技術も冴えていて、だんだん成長し外を向いていく(=親離れしていく)過程を言外に表す演出の巧みさに舌を巻く。

特に長男役を務めた城桧吏君がだんだん(リアルに)成長し、家族を捉える目線が変わっていく様は本当に見事だった。

日本は法治国家なので当然法律は守られることが前提だけど、その法や倫理の外側で生きることを余儀なくされている人や、あるいは外側で生きる方が幸せな人がいるのは紛れもない事実だと思う。

この映画はその生き方の是非を断定することなく、仄かな希望を添えて淡々と描いている。

取調室における安藤サクラと池脇千鶴の対峙はこの映画が訴えるこうしたテーマを最も顕在化させた象徴的なシーンだ。
そしてそこにおける安藤サクラの演技の壮絶さに息を呑んだ。邦画史上最も素晴らしいシーンのひとつだと思うよ本当に。

素晴らしい役者の演技、脚本、セット、細かなディテールに至るまで完璧に素晴らしい一本。観たのが遅すぎたけど観て良かったです。
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