【since nineteen sixty nine…】
撮影中に科白を失念したリック(ディカプリオ)が、トレーラーハウス/控室に戻るなり その切歯扼腕を辺り構わず当たり散らす。
彼が喚き立てる「独り言」が“もう一人の自己"の存在を、その時 彼が覗き込む「鏡」が“もう一つの世界"の存在を仄めかす。
思い出そう ― 我々を指差していたのが リックの実像ではなく“左右反転したリックの鏡像"であった事を―。
刹那、我々の目に映るは反転鏡像の理想自己/理想世界。
― Welcome to the Another world ―
〈ホテルカリフォルニア〉
『そのような精神性は1969年以降疾うに喪われている』『絶対にここを離れる事は出来ない』― イーグルス「ホテルカリフォルニア」との符合はやはり指摘しておくべきだろう。
ヒッピームーブメント、ベトナム、そして件の事象が当時のアメリカの人々に何を齎し そして何を失わせたのか、今は想像する他ない。
アメリカ史の“閉域”として立ち上る’69年。然しながら、他も そして未来すらも顧みず耽溺し続けてしまう抗いがたい魅力、否 魔力がここにはある。
終極にディカプリオが足を踏み入れる隣家門扉奥続く深い漆黒は、まるで二度と出られぬブラックホールの如く 経年拒絶した永遠閉域〈’69〉へと彼を飲み込んでゆく。
since nineteen sixty nine…
《劇場観賞》