踊る猫

イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語の踊る猫のレビュー・感想・評価

3.5
いい意味でも悪い意味でも「懐かしさ」がない映画だ。ザ・スミスのフロントマンであるモリッシーの若き日を描いた映画だそうだが、しかし綴られるのは巷間で知られるスキャンダラスな彼の言動とは似ても似つかない何とも冴えない日々。仕事に行っては不毛なお役所仕事に身をやつすしかなく、音楽を始めてもパッとせず、このまま「埋もれる」だけで終わるのか……と(誰にでもある、と言ってしまえばそれまでの)青年期のモラトリアムをこじらせつつ、煮えたぎるものを抱えて生きる誠実な青年の心象風景は痛いほど伝わってくる。この映画はその心象風景を普遍的なもの、つまりザ・スミスの音楽がリアルだった80年代ではなく「今」にも通じうるものとして表現していると思った。あの時代はサッチャー政権がどうだった……とかそういった御託を並べなくても、誰もが経てきた「あの」モラトリアムと地続きでモリッシーの孤独や焦燥は理解できる、と語らんとしたのがこの映画なのではないかと思われたのだ。流石にこの平板さはどうにもなあと思ったので点は低くなったが、この鼻の奥が熱くなりそうな青臭さは嫌いになれない。
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