サラリーマン岡崎

来るのサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
4.2
原作の『ぼぎわんが、来る』の「ぼぎわんが、」をトリ、映像化した今作。
そのタイトルの意図通り、ぼぎわんについてはあまり描かれなく、
中心となるのは人間の弱さの部分。
いつもの中島監督のテーマ通り。

「獣になれない私たち」というドラマが今クール放送されているが、
テーマが似ている。
現状にとどまり、なかなか正直になれない人間たちのドラマ。
それに加えて、より自分の過去とか後悔とかに固執する人間たちの弱さにフォーカスし、それに漬け込むぼぎわんとして物語が展開されて行く。
どのホラーもそうだが、霊はそもそも生きていた時の後悔が現世にあり、
それ故に成仏できないため、人間たちに取り込むのが基本。
ぼぎわんがその後悔がどれほどあるのかは映画では全く描かれないが、
登場人物たちは同じことに導かれて行く。
(ぼぎわんが鏡や刃物が苦手というのも今の自分を映し出すからだろう)
それを抱いている妻夫木聡・黒木華・岡田准一たちはその後悔を抱いている人たちがぼぎわんとなって襲って来る。
それに対して、小松菜奈と松たか子は今と向き合い、それぞれ違ったアプローチで自分自身と向き合い、違う戦い方でぼぎわんと対峙する。
「何に原因があるのか探るのではなく、どう解決して行くかが大事です」
松たか子も小松菜奈もそう言う。
霊感がある人たちはそうやって霊たちの後悔をなんとなく感じてきたから、
そういう性分になるのかな。

なので基本的に登場人物たちの生活を描くことに尺がとられている。
特に、妻夫木聡の尺が長い。
それぞれの登場人物のパートは明るく描かれていたり、暗く描かれていたりまちまちだが、その中に流れる人間の「表には表さない不気味さ」が感じ取れるため、
緊張感が途切れず、ずっとみていられる。

そして、最終決戦でも、
シン・ゴジラ如く、集結した人間たちがぼぎわんを倒しにかかるので、
ワクワク感が醸成する。
人間たち勝ってくれ…!

なので、み終わった後は総じてかなりエネルギーがとられており、疲れる。
とてもいい疲れである。

ただ、終わり方があまりにもあっさりしており、ぼぎわんとの勝敗の理由もわからないし、あまりテーマとの関連性はない。
上記の人間性の弱さをテーマとしているところも活かしきれていない結末な気もする。
最後は人間サイコーってなりたかったな。

人間の弱さに漬け込むのは、霊も宗教も犯罪もみんなそう。
それを描く映画も多いが、
この映画はそれが現代の課題で描かれるので、確かに現実性を感じられる。
ただ、妻夫木聡ターンが長く、他の登場人物たちの背景があまり描かれないので、
共感がしにくいところもあり。
そして、もっと凶暴になって欲しかったな。

なので、エンターテイメントとしてはとても面白く、ずっとみてられ、
最高に楽しいのだが、
なかなか人物たちとテーマのが共感まで結びつかず、いつも中島監督作品に感じる後味の悪さがない。
整理してくれたらわかりやすかったのにな。

ただ、エンターテイメントホラーとして、
一般大衆を引きつけ、その表面的なワクワク感を持って観にきた客に、
現実的な恐怖を与える手法は、
映画というメディアとしてあるべき姿であるので、さすが!!!
あと、OPクレジットの中島監督のドヤ感もさすが!!!笑

はぁ、前を向いて生きてぇです。