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芳華-Youth-のシネマノのレビュー・感想・評価

芳華-Youth-(2017年製作の映画)
4.2
「美しくて残酷。”すべての青春に捧ぐ”は伊達じゃない名作」

物語の中心になる男の子と女の子、降りしきる雨のなか敬礼の作法と隠すべき身分の話。
青春ドラマの幕開けというよりも。
それは若き軍人たちの物語として展開されていくのだということを思い知らされる。

「文芸工作団」
軍人たちの宣伝、慰問や激励をするために発足された軍部の芸能団が舞台。
楽器隊と舞踊隊の美しいパフォーマンスシーンに目を奪われたかと思えば、
きれいな音を奏で、ひらひらと舞っていたその手に銃をとって射撃訓練に参加し、軍の規律に従って生活する様子が描かれる。
若者たちの生活に射す光と影があり、だからこそ挿入されるシーンのどれもに瑞々しい美しさがあった。

好きな子を待ち伏せ、プールではしゃぎ。
女の子は噂話、男の子はバカをする。
いつの時代も変わらない姿がそこにはあって。
良いヤツもいれば、気の合わないヤツもいる。
本作の主人公、その中の誰よりも正直者であった男女がそれから辿る人生に伸びる影の分だけ光が強いかのように、多くの登場人物にスポットが当てられてゆく。
その青春は独りでは決して輝かなかった。
甘いだけではなく、苦かったとしても味気ないものではなかった。

だからこそ、戦火に呑まれてゆく中盤からがあまりにも心苦しい。
巨額を投じて撮影されたという、約6分間ワンカットの壮絶な地上防衛戦は度肝を抜かれた。
手榴弾は肉体を跡形もなく吹き飛ばし、銃弾は四肢を消し飛ばす。
1発の銃弾の"重さ"をここまで強く感じたのは初めてかもしれない。

好きな誰かの手をとりたかった手が
ふざけ合って駆けていた足が
愛する人を抱きしめたいと求めた身体が
失くなってゆく。
その凄まじさを前に唖然とした。
これは青春時代が放つ芳しい華の物語であると同時に、軍人の話なのだ。

どんな人間性でも、誰が好きでも、何を夢に抱えていても。
彼らの人生を、現在を、未来を焼き払おうとしてくる。
文字通り、その身も心も吹き飛ばそうとしてくる。
そして、序盤には散文的にすら感じた数多の登場人物たちは全員がその流れの渦に巻き込まれていく。

ここまででも複数の映画が作れそうなほど濃密なのだが、物語は終わらない。
青春の芳華を心に咲かせたまま激動の運命を辿った若者たちのその後。
心が忘れ(られ)なかった夜の美しい舞い。
彼らが生きた文工団の忘れられぬ夜。
時代の流れに身を任せた者、抗った者、正直であった人、偽り続けた人。
皆の運命の行方はどれもがその背景あればこそ、胸を打つものがあった。
激しさと美しさ舞い乱れたあとに訪れる結末も見事でした。

原作者のゲリン・ヤンも、フォン・シャオガン監督も文工団にいた経験があるそう。
だからこそ、その失われない記憶の美しさと想いがこんな青春大絵巻に結実したのだろう。
そして、まだまだ描きたいこともあったはず。
もっと観てみたい、観ていたいと思うと同時に、このラストの余韻もまた青春の芳しき華の存在を確かに思わせる。
めちゃくちゃ高い期待をもって鑑賞したが、それでも大満足の一作でした。
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