なべ

ヘレディタリー/継承のなべのレビュー・感想・評価

ヘレディタリー/継承(2018年製作の映画)
4.6
 疲れた。果たしてこれは怖かったのか…。
 いわゆる今までのホラー映画の枠組みで捉えるなら怖くはなかった。だけど、不穏で、不安で、忌まわしく、禍々しく、厭らしい何かをふんだんに浴びせられたのは間違いない。精神を蝕む負の何か。きっとそれは怖いと言っていいものだ。
 セリフ、演技、照明、サウンドデザイン、そして役者の顔つき(これヤバイ!)…どれを取っても一級品で、独特の感触がある。しかもじっくり丁寧に時間を進めるので、少しずつ病に冒されるような、輪郭が侵食されるような不快感も伴う。気がつけば監督の術中にはまってるというね。そんな油断ならない雰囲気が心地いい。いや、心地悪いのか。
 確かに話はオカルトなのだけれど、厭味溢れる罪と罰と業に塗れた家族映画としても十二分に愉しめる。どちらかというとそちらの毒気にあてられたかも。
 夢遊病とか分裂症の血筋なんて設定があるので、オカルトが嫌いな人はそっち方面から筋を追うことも可能だ。
 今回はリテラシーが必要な映画だと聞いていたので、事前に最小限の情報だけ頭に入れて臨んだ(ちなみにぼくが事前に調べたのはパイモンという悪魔について。これをウィキって行くだけでもかなりのアドバンテージになる)。
 ホラーは好き嫌いがあるから、誰にでもすすめるわけにはいかないが、上質な文芸系ホラーが好きって人は、いらぬ情報が入ってくる前に観に行って!
 あ、家族にトラウマのある人や家族という名の呪いにかかってる人は注意してね。下手すると立ち直れないかもよ。

追記
 二度目の鑑賞は絶叫上映。が、しかし!あまりの深刻さに会場はシーン。最後まで無言の絶叫上映という…。一度目より二度目の方が話がわかってる分、より深く集中できたせいか、怖さも前回より増量だった。
 初見時に気になった「これはホラーか?」という疑問だが、よくよく考えてみると、ヘレディタリーは家族ならではの言葉と態度で繰り広げられるスプラッタームービーといっても過言ではないと思う。血は流れないけど、その言葉のダメージ地獄級みたいな。実はこれこそが怖いことで、他人には絶対そんなこと言わないセリフを、家族だから言ってしまうっていう地獄。これをスクリーンで正面切ってやられたから戦慄しちゃうんだよね。怖がってる人、おもしろがってる人、新しいと感じてる人、心がヒリヒリするのはそこですよね?

さらに追記
 三度目の鑑賞ともなると、隅々まで気を配った繊細なつくりなのがわかって、優雅な怖みによる静かな感動が押し寄せてきた。今回は昔みたロバート・レッドフォードの「普通の人々」を思い出したよ。全然普通じゃないハイソな家族ムービーなんだが、あれも結構な厭映画だったなあと。

またまた追記
 ネトフリでヘレディタリーを観た同僚が、興奮してLINEを立て続けに送りつけてくる。ところどころ誤認してるから修正の返信がめんどくさい。だから散々言ったじゃん、おもしろいから早く観に行けと。おせーんだよ。こちらはミッドサマーのブームさえ終わってるというのに。
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