銀色のファクシミリ

洗骨の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

洗骨(2018年製作の映画)
4.4
『洗骨』(2019/日)
結論から書くと大傑作! 年間ベスト10の一席に座る一作。
ラストショットまで貫かれた明確なテーマ。説明的な台詞と心情吐露は日常の必然の中で紡がれ、深い心象の変化は示唆的な演出で描かれる。コメディテイストもラストまで見れば納得。練り上げられた脚本にも感服でした。
洗骨とその後の出来事を通じて、自分自身と家族を取り戻す新城家の人々。定型化されて進む今の一般的なお葬式にも、洗骨の葬礼から感じられる意味の「残り香」があるから、独特の葬礼の風習から普遍的なテーマが描けるのだと思いました。褒めるところしかないくらいの映画なので、残りはふせったーで。

ちょっと追記。この映画、本当にスキがないのですよね。明確な主題、しっかり構築された物語、皆に救いがある暖かい視線、南国の風景描写。照屋年之監督が真摯かつ誠実に作品に向き合ってこられたのかが伝わります。それだけでも素晴らしいのに出来た映画は大傑作。次回作の予定があれば嬉しいです。
(2019年4月27日感想)

ふせったー追記感想。『洗骨』のコメディテイストについて。
最初は、ガレッジセールのゴリ監督の映画だから観客へのサービスなのかな? と思っていたのですが、コメディテイストで貫くからこそ、終盤のシーンに説得力があるのだと分かりました。

父の姉、信子さんがコメディパートの多くを担いますが、それはラストの砂浜で父と兄が必死で動くことで家族と自分の形を回復するために、彼女は動けなくなる(=ギックリ腰になる)必要があるから。
物語がラストまでリアル重視、シリアス一辺倒ですと、あの場所で突然に陣痛が始まり、彼女まで動けなくなるのは不自然過ぎて、物語が壊れて観客は醒めてしまいます。しかしここまで積み重ねたコメディテイストの物語と、信子さんのコメディキャラが、あの場所でのギックリ腰になることを観客に許容させていると思いました。同様にカギ忘れについても。

ふせったー追記感想。鈴木Q太郎さんの店長さんについて。
奥田瑛二はじめ、有名キャストを相手にまわしての作品MVPだと思いました。善人だけど少しだけズレてしまう行動と発言の面白み。そして少しだけ無遠慮な空気の読まなささが→彼の質問に答える形で、観客に洗骨について情報を与える。独特な風習を行う家族と親せきという閉じた世界の中に、名古屋から訪れた彼が一向に加わることで、観客も店長さんの立場で葬礼に参加できる形に。
そして、あの場でのプロポーズと父の了承を得るのは、この物語のラストのセリフで語ったテーマを上手く補完していると感じました。生まれる前に結婚を了承してほしいというのは、あの場で感じた「家族の連続性」のため。生まれてくる我が子に「君はお父さんとお母さんの子供として、この世に生を受けたんだ」と伝えるため。店長さんは、にいにより少し先に洗骨の葬礼の意味を理解しており、また彼の決断は単なる責任をとるための結婚ではなくなって、優子と赤子の明るい未来を観客に予感させることにつながったのだと思います。あの島で店長さんが得たものは大きかったはず。スマホはなくなりましたけど。
(2019年4月27日感想)

#2019年上半期映画ベスト・ベスト助演俳優
・鈴木Q太郎/『洗骨』
独特な葬礼に、ある事情で立ち会う本土から来た人。普段ここにいない人=異物感が必要で、一般人でもなければ役者さんが本業でもない、でも知名度が高くて認識されているという吉本興業の芸人さんキャスト史上、最高のはまり方かも。この人がいるから観客は置いてけぼりにされず、いつしかこの人を自身の分身として「洗骨」に立ち会う。少しズレているけれど好感の持てる人でもあって、最後に至った心境を知った時に「洗骨」に立ち会えて良かったね、と思える。助演というかベスト裏主人公。
(2019年7月4日感想)

#2019年上半期映画ベスト10
・『洗骨』
家族と命という大きな主題を扱いながら、コメディテイストで描かれる温かい物語。予想を少しづつ裏切りながら進む序盤の展開の作りこみなど、並々ならぬ熱意で作られた事が伝わってくるのも好感。「誰にでもオススメできる楽しさ」という点で上半期NO.1の映画。
(2019年7月4日感想)