踊る猫

グッド・ヴァイブレーションズの踊る猫のレビュー・感想・評価

4.1
これは「イングランズ・ドリーミング」ならぬ「アイルランズ・ドリーミング」だ。別の言い方をすれば夢追い人の物語である。内戦/内紛が続き憎しみが憎しみを呼ぶアイルランドで、ちっぽけなレコード店を開いたテリー。彼の前に現れたパンクスたちの才能をいち早く見抜き、そこから自分たちで自主制作のレコードを出そうと試みる。彼らの音楽はメジャーからは当初相手にされなかったが、次第に人気に火が付き始める……こう記すとサクセス・ストーリーのようでもあるが、無難にまとまったストーリーとは言い難い。テリーはあくまで夢に生き、パンクを追いかけて自分の妻の妊娠も置いてけぼり。人格破綻者……のようでもあり(特に女性からは)ウケが悪いとも思うが、私は男だからかテリーのこの夢追い人ぶりに憧れをも感じる。小さくまとまった人間なのでなく、彼の中に眠るパンク魂故を隠さずキッズたちとつるんで夢を追い続ける。もう少し紛争の悲惨さや彼が体験した辛苦をネガティブに描いてもよかったようにも思うが、そうするとこの映画の「グッド・ヴァイブレーション」が損なわれるのが悩ましい。
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